英国の女性イザベラ・バードが日本を旅したのは1878(明治11)年のことだった。18歳の男を通訳兼従者に雇っただけの二人連れで、東北と北海道を徒歩や馬で回ったのである
▼当時のことゆえ外国人を見たことのある日本人などほとんどいない。山形県米沢では出発しようと宿から出てみると、彼女を見物するため1500人もの人が集まっていたそうだ。寝部屋の障子が穴だらけになったこともあったらしい。地方に住む者にとって、外国人を見るのは一生に一度あるかないかの出来事だったろう。ぶしつけだとは分かっていても、好奇心は抑えられなかったようだ。明治の話と笑ってはいられない。日本では割と最近までこれと似たような状況だったのである
▼今は違う。観光庁がおととい発表した宿泊旅行統計によると、6月の外国人延べ宿泊者数は616万人で2007年の調査開始以来最高を記録した。前年同月比は三大都市圏の6.5%増に対し、地方が14.7%増。地方の大きな伸びが目立つ。先日、釧路市内の海岸で行方不明になっていた中国人女性が遺体となって発見された。多くの人が無事を祈っていただけに残念なことだ。それもあって再認識したのだが、このところ外国人が日本で事件や事故に遭ったとの報道をよく見る
▼年間2400万人(16年)の外国人が訪れているとなればそれも当然。10年前の3倍、50年前の55倍である。もはや障子に穴を開けて外国人を珍しがる世の中ではない。今はこれだけの外国人と共に暮らす現実を、しっかり受け止める必要があるのだろう。