真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第14回 久住書房 代表取締役社長 久住 邦晴さん

2010年05月28日 12時09分

 くすみ書房は、戦後間もなく琴似(札幌市西区)に創業した老舗の本屋です。大手書店のチェーン店進出に加え、コンビニエンスストアでの雑誌やコミックの販売、インターネットによる書籍販売の影響等で、各地の「まちの本屋」が影を潜める中、良書ながら絶版を待つばかりとなっていた「売れない文庫」を特集したり、「本屋のオヤジのおせっかい 中学生はこれを読め!」と題した読書離れ著しい中学生のための棚を設ける等、「まちの本屋」ならではのユニークな企画で注目され、その奮闘は全国的にも知られています。

書店に足を運ばなくても本を購入できる時代に、くすみ書房が支持されている理由は何だと思われますか。

久住 邦晴さん

久住 本を売ることだけに固執せず、お客さまが店に足を運びたくなるような切り口で、読書を提案しているからではないでしょうか。ここ10数年、販売競争の激化や、消費者に本そのものが読まれなくなったのではないかという懸念が広がり、苦境に立たされている書店は少なくありません。私も例に漏れず、ありとあらゆる試みで何とか売り上げを回復させようと努めていましたが、そのかいなく、7年前には閉店を決意する状況にまで追い込まれてしまいました。

 そんな時、人を集めることの重要性を説くあるビジネス書を読んだんです。本屋は、週刊誌や月刊誌が並べば定期的にお客さまが来店くださるはず、と思いがち。この本との出会いにより、「売り上げ」はさておき、まずは「集客」に専念してみよう、これまでにない発想を実践すれば逆境を覆せるかもしれないと発奮しました。

具体的には、どんな内容がヒントになったのでしょうか。

久住 その本には「面白くてすごくて変なこと」が人を集める、とありました。そこで思いついたのが、大抵の書店の在庫には無い、売れ筋以外の「売れない文庫」を集め、フェアを開催すること。このアイデアには当初、誰もが「変だ、むちゃだ」と首をかしげたものですから、かえってうまくいくのではと自信を深めました。

 マスコミ向けのチラシは、ニュース性を意識し、「次郎物語」のような名作でも「売れない文庫」として扱われていることを引き合いに、価値ある良書が書店から消えつつある現状を伝える内容にしました。タイトルの「なぜだ!?売れない文庫フェア」は、そのような現状に疑問を投げかける本屋のオヤジの思いが表れ、同時にマニュアルの販売手法にこだわらない「まちの本屋」の頼もしさも感じていただけたのだと思います。

 おかげで、フェア開催は新聞やテレビで次々に取り上げられ、店は連日大盛況。用意していた1,500冊の「売れない文庫」は15日間で完売し、その月の売り上げは前年比で15%アップ。それまでが対前年で20%も下回っていましたから、実質売り上げは3割以上伸びたことになります。

そのような反響は、久住さんの仕掛けにお客さまが興味を抱いただけではなく、多くの人が、まちの本屋の大切さや居心地の良さを思い出したからではないかと想像します。

久住 長年書店を営み、お客さまに「頑張ってください」と声をかけていただいたのは、思えばこのときが初めて。フェアは、店の起死回生をかけた経営者としての苦肉の策でしたが、1,000坪規模の大手書店やインターネット販売とは別の、身の丈にあったやり方でも、これだけ多くの皆さまにご支持いただけるのだと、正直驚きました。私にとっても、まちの本屋として、地域の皆さまの支えを肌で感じる貴重な経験だったと振り返ります。

近ごろますます、まちの本屋を見かけることが少なくなりました。厳しい環境が続く中で、「まちの本屋」として大切にしていることはありますか。

久住 小規模でも文化の発信基地であるという気概で、本の力を伝えることです。かつて経営に行き詰まった私が、読書に光明を見出したように、本には、人生の可能性を広げる力があり、人生の道しるべを示す答えがある。そのような本は、話題の新刊やベストセラーばかりではないんです。

 業界に逆風が吹く今こそ、「まちの本屋」の存在価値が試されているとき。私はこれからも、本屋のオヤジのおせっかいで、あれ読めこれ読めと言い続け、本の力を、きちんと、心を込めて伝えて行きたいと思います。

取材を終えて

人気の2枚看板で挑戦

 昨秋、くすみ書房は、大谷地(札幌市厚別区)に移転。「売れない文庫」や「中学生はこれを読め!」は、新天地でも2枚看板として人気です。今は高校生を対象にしたビッグプロジェクトを準備中だと、生き生きとした表情で話してくれた久住さん。大志を抱き、誰もやらないことにチャレンジし続ける姿は、私が想像していた「フロンティアスピリッツ」そのものだと思いました。


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