真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第17回 北海道銀行 前頭取 藤田 恒郎さん

2010年07月30日 12時02分

 藤田さんは、1957年に旧大蔵省に入省。在省時は、高度経済成長期を経た日本が、経済大国としての力量を問われ始めた転換期。為替は固定相場制から変動相場制に移行し、戦後、国内の経済復興に努めてきた金融政策も、世界経済への波及を考慮することが求められるようになりました。証券局長時代には、インサイダー取引を規制する「改正証券取引法」成立の指揮をとり、東京市場の国際化を推進。バブル崩壊後、92年から11年間は、北海道銀行の頭取を務め、予想を超える不良債権処理と有価証券の含み損一掃など、資産内容の健全化に腐心し、拓銀破綻後には、3%台に落ち込んだ同行の自己資本比率を、地元企業からの増資や公的資金の導入で8%台にまで回復させ、窮地を乗り切りました。時代の激動の中で奮闘を重ねてきた藤田さんは、局面により「役目」を見極め全うする繰り返しだったと、かつてを振り返ります。

大勢が目まぐるしく変化する中で、藤田さんが、改革の旗振り役として、組織のトップとして心がけてきたことは。

藤田 恒郎さん

藤田 目先にとらわれず、将来のあるべき姿を明確にし、それを遂げる対策を絞り込み、迅速に着手すること。先見と選択とスピードです。私が証券局長に就任したのは、バブル景気目前。プラザ合意後の円高不況を憂慮した低金利政策による景気好転で、外資系証券会社の進出もみられるなど、東京市場の国際化が明らかになり始めたころでした。

 しかし、当時の東京市場はインサイダーの巣窟。公器である市場での取引が不透明なまま、国際化を推し進めるわけには行かなかった。「改正証券取引法」の成立には、それまで甘い汁を吸っていた証券界から強い反発がありましたが、国際市場になってマーケットが広がれば利益が還元される。目的ははっきりしていました。

 道銀の不良債権の処理額は、想像の倍以上でしたね。処理には原資が必要ですが、バブルの崩壊に歯止めがかからず日本経済のファンダメンタル自体が脆弱な中、貸し付けで収益を上げるのは不可能。収益力を高めるためには、経費を削減するしかないと思いました。

 早速「合理化」の大号令をかけ、93年からの10年間で、行員数を35%、人件費を30%、経費を25%減らしています。膨らみ続ける不良債権の処理で減る自己資本の補充に奔走しながら、頭取辞任までに、赤字5回、無配5回。当時の処理額を考えると、今でも背筋が寒くなるほどですが、道銀の新境地を開くため、資産内容の健全化が不可欠だという信念で邁進する日々でした。

これからの北海道は「観光」と「食」だと言われています。藤田さんは、札幌観光協会の会長として観光誘致事業にも力を注がれました。北海道の新展開に必要なことは何だと思いますか。

藤田 恒郎さん

藤田 確かに観光と農業は、北海道の未来を支える産業だと思いますが、そのインフラ整備や維持、運営にかかる莫大な費用にも留意しなければなりません。例えば、観光大国のヨーロッパ諸国では、第二次世界大戦で破壊された名所旧跡を終戦翌日には現状通りに復旧するほど、観光資源の維持に配慮し惜しみない投資もしています。

 北海道の広大な農地を生かし欧米並みの大農業を模索しても、人手が足りない。アメリカの大農場ではメキシコ人などを雇い、フランスのぶどう畑でも多くの移民が働いて、その規模が維持されているんです。北海道は、というと人件費確保の議論さえ、あまり耳にしないのが現状です。

 財源は有限。これを有効活用するために、行政でも民間企業同様のコスト管理が必要です。実際、観光協会会長在任時には、さっぽろ羊ヶ丘展望台の敷地内にある結婚式場の運営を民間企業に委託し、12年ぶりに黒字決算にしました。人件費や広告宣伝費をアウトソーシングし、経費を必要最小限に抑えた結果です。新展開には、このような財務運用の発想がさらに重要になってくると思います。

現在は札幌学院大学の理事長として人材の育成に尽力されています。藤田さんが期待される次世代の「起ーパーソン」とは。

藤田 国際感覚を身につけた人。多くの若い人に、自国以外でも臆せず自分の存在を誇示できるたくましさをもってもらいたいと思います。道内企業の海外進出には、外国語に堪能な人材も不可欠でしょう。言葉の壁を越えて、他国のマインドを理解できるコミュニケーション能力はますます求められます。

 希望は想像ではなくて創造するもの、が私の持論。絵空事ではなく実現させて行く事なんです。そのような頼もしい人材の育成には、実人生を生きる基盤となる、人生観や人生哲学を培う機会も大切。実体験や諸先輩の姿勢から机上では得られない学びがあることを、私も経験上よく理解しています。少子化や教育の質が問われ、大学存亡の懸念が山積する中で、学生を引き付けるこれからの大学のあり方について、このごろは、若い人とよく議論してるんですよ。

取材を終えて

取材風景

国や企業の命運かけて

 国家や企業の命運をかけ、重責を遂げてこられた藤田さん。その緊迫感たるやどれほどか、という私の勝手な想像に、「清水の舞台から飛び降りるようなことはなく、やるべきことをやってきただけ」と、当時の心境を話してくださいました。金融自由化の舞台裏と人生の先輩の大きさを知る貴重な時間でした。


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