在札幌米国総領事館の商務部は、北日本地域(北海道、青森、秋田、岩手、宮城)における日米のビジネスマッチングを促進する役割を担っています。清水さんは主に、デザインが美しく北国の風土にも適する北米式建築住宅の普及に力を注ぎ、個別のビジネスカウンセリングのほか、展示会やセミナーなど販促イベントも積極的に開催。昨年度は、欧米各国の住宅事情をよく知る立場で、北海道観光のアドバイザリーボードメンバー(社団法人北海道観光振興機構が設置)も務められました。「美しい住宅街は観光客の憧れ」と話す清水さんにお話を伺いました。
北海道観光の魅力は手つかずの自然美だと言われる中で、人工の最たる住宅景観にも、観光を意識した美しさを見出すべきではないかという清水さんの視点は、興味深い切り口だと思いました。
清水 世界遺産に認定されているイタリアのマテーラや岐阜県の白川郷も、実は住宅街。ボストンには、ビーコンストリートというアメリカの歴史的建築様式を踏襲したれんが造りの家が軒を連ねた住宅街があり、人気の観光スポットになっています。
これらの住宅街に共通しているのは、地域の風土と調和し、かつ伝統や文化を背景にした美的よりどころに基づくデザインで、一貫性があり、時を経ても色あせない普遍の美があることです。また、どの住宅も一世紀以上にもわたって住み替えが繰り返され、相当の中古住宅になっているにもかかわらず、住人によって美観が維持され続けています。
ちなみに、中古住宅の流通市場規模を調べてみると、全住宅取引量のうち、日本の中古住宅の割合が1割強であるのに比べ、観光大国と呼ばれるアメリカやイギリス、フランスなどは8割前後と圧倒的に高く(Mapfan/住宅情報検索サービス調べ)、データの上でも古い家に愛着を感じる欧米各国の国民性がうかがえますよね。
確かに、日本では「家は一生の買い物」と言われているほどなのに、アメリカ人は家族のライフステージに合わせて何度も住み替えすると聞き、驚きました。
清水 アメリカでは、家が社会資本としてストック経済に組み込まれ、リフォームやリモデリング等で手を掛ければ掛けるほど価値が上昇し、築100年にもなるとビンテージ物件といわれるようにもなります。
しかし日本では、住宅は消費財。よほどの家でない限り、築年数の経過で資産価値は下がり、住宅ローンを払い終えるころには、購入当初の資産価値が限りなくゼロに近くなります。このような住宅を取り巻く環境の相違も、日米の「家」のとらえ方の違いにかかわっているのではないかと思います。
清水さんがお考えになる「美しい住宅街」は、「新しい」「古い」によるものではないのですね。
清水 家は住宅街や町並みの一部。住人が家をマクロな視点でとらえている住宅街は、築年数などの物理的条件にかかわらず、美しく魅力的です。
例えばドイツでは、窓辺に花を飾ることが地域の条例できまっているところもあるほど、公共の美に関して市民の意識が高いんです。それに清潔で整然とした住宅街には、犯罪も起きづらいと言われているんですよ。住人自身が美しいと感じ安心して住んでいる場所には、観光客だって心ひかれるのではないでしょうか。
私の仕事は日米間のビジネスの橋渡しをすることですが、中でも北海道は、明治時代、外国人技術者により北米式建築が推進されたところ。風土も気候も欧米に近く、私が知る欧州や北米住宅に根付いた美意識が最も伝わりやすい地域ではないかとやりがいを感じています。
アメリカ留学時代、一番のカルチャーショックは美しく大きく頑丈な「家」でした。目先の流行にとらわれず、無駄なものは買わず、物が壊れたら修理しすぐに新品を求めない、当時のアメリカ人の暮らしぶりに本当の豊かさも感じたものです。私が抱いたあの感情は、観光の原点、つまり、「訪れてみたい」という憧れの感情と同じであると、あらためて思っています。
取材を終えて
住文化の本当の意味を
清水さんは倶知安町のご出身。大学留学が初海外だったそうです。渡米したその日、新生活のはなむけに贈られた短い英語「グッドラック」に、辞書の上では知り得なかった奥深さを実感したという清水さん。仕事を通し、外国の住文化の本当の意味を伝えようとされる今のお姿に通じる、素敵なエピソードだと思いました。