真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第25回 陶芸家・NPO法人ラポラポラ 代表 工藤 和彦さん

2011年01月14日 12時38分

 ラポラポラはアウトサイダー・アートの社会的認知を目指し、旭川近郊で活動するアーティストの有志により設立されたNPO法人です。アウトサイダー・アートは、既成の美術教育を受けず、古典芸術や流行等に影響されていない作家による作品の総称で、欧米では億単位の価格で売買されるものもあるほど注目されています。知的障害や精神疾患の心理療法の一環で生まれた作品も多く、日本では、福祉向上の一助となる社会的弱者のアートとして捉えられがちでした。工藤さんたちは道内の作品の発掘や展示の他、国内外の優れたアウトサイダー・アートを紹介するイベントを精力的に開催。固定概念にとらわれないその魅力を広く伝え、社会の価値観を変え得るアウトサイダー・アートの可能性を模索しています。

工藤さんが期待しているアウトサイダー・アートの可能性とは。

工藤 和彦さん

工藤 美術的な知識や技術を学びながら創作に悩むアーティストもいる中で、アウトサイダー・アートの作家はつくりたいものを好きなようにつくり、その作品は極めてユニークです。アートは個性が命。他と違うことでより際立つもの。昨春には、パリの市立美術館で、日本のアウトサイダー・アートを大々的に紹介する「アール・ブリュット(仏語でアウトサイダー・アートの意)ジャポネ展」が催され、僕たちが推薦した北海道の作家も出品しました。

 伝統や流行、文化に影響されない作品なだけに、作家のこだわりが異文化の外国人にも伝わりやすいのでしょう。展覧会は開催一週間で4万人以上を動員し、何度も足を運ぶ人もいたそうです。キャリアを重ねた作家でもそうそう出品できないパリの美術館に彼らの作品が受け入れられ、支持されている様には、これまでの価値観を根底から覆すパワーを感じました。

工藤さんは陶芸家です。つくり手としては、彼らの創作からどのような影響を受けましたか。

工藤 アウトサイダー・アートとの出会いは、滋賀県で陶芸の修行をしていたころ。県内の福祉施設で、ひたすら創作し続ける人の姿に目を奪われました。彼は、馬だか犬だかわからないものを粘土で延々とつくり、テーブルや棚いっぱいに並べていましたが、2000個以上はあるであろうそれを、作業終了の合図とともに、あっさり土練機に入れてしまうんです。それを毎日繰り返し、やめさせると落ち着きがなくなるという状況でした。

 披露も営利もつくり終える達成感も目的ではないものづくり。陶芸家として独り立ちすることを目標にしていた当時の僕にとって、つくる行為そのものへの執着や衝動が作者自身を充実させている様子は衝撃でした。どうして彼らはつくるのか、なぜ飽きないのか。当初から僕の興味は、作家の内面に向かっていたと思います。

 一昨年は、スイス人作家・アロイーズの回顧展でディレクションを担当。46年間統合失調症を患っていた彼女が、妄想を絵画として具現することで、自分の存在を確認していたことを知りました。「幻覚」も、実際に見えている本人には真実。おそらく彼女にとって、創作は楽しいものではなく、現実を生き抜くために寄り添わざるを得ない世界だったのだと、背景に渦巻く生き様を垣間みる思いでした。

 一見突飛なアウトサイダー・アートは、想像を超えるつくり手の人生経験があってこそ。アウトサイダー・アートを深く知ることで、創作には、作家がどのような人生を歩んでいるかが重要だと再認識できました。

私も先日、アウトサイダー・アートを鑑賞しました。社会の保護や助けを必要とし、場合によっては不遇とも思われがちな作家たちの、多彩で豊かな表現に目を見張ると同時に、それまでの自分のナンセンスな先入観に気づき、はっとしました。

工藤 NPO立ち上げより5年。福祉事業等に携わっていない支援者も徐々に増え、一般市民からの問い合わせも多くなりました。アウトサイダー・アートの高い芸術性に憧れや尊敬の念を抱き、活動に協力してくれる学生も少なくありません。日本では、アウトサイダー・アートを「障害者アート」と狭義に呼称することもありますが、その芸術的価値や真の魅力に触れ、他者と互いの違いを認め合う人が増えて行けば、社会はより豊かに変わる、と僕は信じています。

取材を終えて

面倒が「楽しみ」

 アウトイダー・アートの鑑賞は、どこに球を投げてくるのか見当もつかない相手とのキャッチボールのようだという工藤さん。球を追いかけて拾ったり、時には球の行方を予想して先回りしたり…。そんな一見面倒なやりとりも、作品を介せば「楽しめる」のがアートの力、と話してくれました。「つながり」が希薄と言われる昨今。アートが社会に果たす役割を意識する工藤さんの創作活動も楽しみになるインタビューでした。


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