農家のこせがれネットワークは、神奈川県の養豚農家の「こせがれ」らが発足させた全国組織です。担い手不足や耕作放棄地の拡大等、日本の農業が抱える問題を解決するために、新規就農に比べ設備投資やリスクが少ない「農家のこせがれ」の就農を促し、農業が「かっこよくて、稼げて、感動がある」新3K産業になることを目指したさまざまな企画を展開しています。内山さんはアスパラ農家(美唄市)の3代目。大学卒業後、サラリーマンを経験した後3年前に就農しました。こせがれネットワークでは、道内の「こせがれ」有志や、活動趣旨に賛同する生産者、消費者、支援者の声を束ねる代表として、北海道独自の活動もけん引しています。「農業は、地域や農家によって、環境や戦略もそれぞれ。同志と切磋琢磨しながら、新しい農業を探って行きたい」と、意欲的です。
ネットワークでは、就農者を増やすための広報に加え、生産者が農業について更に知識を深めることを主眼にした活動が目立っているように思いました。ねらいは。
内山 今議論されている農業の諸問題は、農家の不勉強も一因。僕たちは、先行きを懸念するのであれば、まず農家自らが思案し行動することが大事だと気付くところから、新しい農業が始まるのではないかと考えています。
よく「ネットワークを強化して何か商売でも仕掛けるんでしょう」とも聞かれますが、最も重視しているのは、濃密な情報交換と学習の場づくり。有識者に講演していただいたり、同様の問題意識を持つ生産者同士が知恵を出し合える機会を設けたりして、ここで、もっと見識を深めましょうと。
例えば、前例や大勢に従い農協や商社に出荷するのと、いろいろな方法の中からそれを選ぶのとでは、結果は同じでも、背景が大きく違いますよね。僕たちの活動は、何が正しいとか、こうあるべき、という方向付けはせず、生産者が、多種多様な農法や農業の姿を知ることで、より多くの「選択肢」を得て、農業の可能性を見出して行くことに力を注いでいるんです。
主催イベントには、生産者以外でも参加できますから、集まってくれる支援者や消費者にも、新しい農業を模索する農家の試行錯誤を実際にみていただけます。これも僕たちの励みです。
内山さんが就農を決意したのはなぜですか。
内山 農家のこせがれなのに、農作業に興味が持てず、新卒で一般企業に就職しました。終身雇用がまだ根強い頃でしたが、もともと自分で何でもしたい、何でも知りたい性分。ハウスメーカーを皮切りに転社を重ね、トップセールスになるほど仕事に打ち込んだんです。業種により異なる知識とスキルを得られることが面白く、経営コンサルタントとして独立するために勉強も始めました。
実はそこでようやく、農業も、投資と回収がある「経営」だと気付いたんです。それに農業の収穫は1年に1度。サラリーマンなら、やる気次第で、短期間に実績を上げることができるけれど、農業の成果を確かめるチャンスは、今34歳の僕でも、せいぜいあと30数回です。農業のスケールと父が積み重ねてきたものの重みを思い知り、僕の代で終わらせるわけにはいかないと真剣に考えるようになりました。
近頃は、リストラや退職後の新天地に農業を選ぶ人も少なくないと聞いていますが、おっしゃるように、農業は一朝一夕では到底成り立たない仕事。就農数を増やすと同時に、どのような就農者が増えてほしいと期待されますか。
内山 ネットワークでは、土地が狭く地価が高い場所で奮闘している道外の生産者にも出会います。僕からすれば、決して恵まれているとは言えない環境ながら、限られた面積をいかに活用し利益を生むかに腐心する彼らのバイタリティに、大いに刺激を受けています。
埼玉県には、先祖代々「時代に合った経営」を語り継ぎ、300年続いている農家がいます。17代目の彼は今31歳。小学生の頃から、親父のかっこよさに憧れて、農家を継ぐと決めていたそうです。感動しました。
僕たちが活動を通し、学び、伝えたいのは農家の「マインド」と「行動力」です。僕は、たとえ立ち行かないときでも、天気や時代のせいにしたくないし、「農家は大変ですね」という言葉に甘んじるのにも、違和感をおぼえます。農業には、農作業も営業も企画も事務もある。本来は、多岐に渡りスキルアップがはかれる面白い仕事なんですよ。
ネットワークの目標は、小学生の将来の夢・第一位を「農家」にすること。どのような状況にも動じず、手を抜かず、幅広い知識を駆使し知恵を生かしている農家には、僕だって憧れます。そんなかっこいい農家に少しでも近づけるように、まだまだ学びたい。農業に希望を抱く仲間と共にこれからも成長していきたいと思います。
取材を終えて
憂い払拭する頼もしさが
活動のおかげで、今は農業について考えるだけで楽しくて仕方がない、という内山さん。同じ志で頑張る仲間を思うと、苦手な農作業にも自然と力がこもるそうです。農業の未来をひらく意志で、家業を守り継ぐ内山さんが、時に熱く、時に冷静に語る様子に、農業の将来を憂う議論を払拭するような頼もしさを感じました。