世界中に似たような話が幾つもあるらしい。「胃袋への反乱」(『魔法の糸』実務教育出版)という昔話のことである
▼手と足と口と脳はそろっていつもこんな強い不満を抱いていた。自分たちは一日中あくせく働いているのに、胃袋ときたら一つ所にじっとして食べ物をむさぼっているだけじゃないか。ある日、不公平さに我慢ならなくなった彼らは怠け者の胃袋を困らせてやろう、と一斉に働くのをやめてしまう。結果はご想像の通り。人間は元気を失い、ついに動けなくなってしまうのである。これは昔話だが、現代ならきっと全く逆の形の話も生まれるだろう。こんな風に
▼手と足と口と脳が文句を言う。胃袋ときたら毎日よく働き過ぎて、われわれはぶくぶく肥え太るばかりだ。このままでは大変なことになるから、病的に働く胃袋に食べ物を送るのはやめてしまおう。まあ、結末は同じ。極端に走ればやはり人間は健康を害してしまう。行き過ぎたダイエットから拒食症に陥ってしまう例もあるようだ。フランスの高級ブランド、ルイ・ヴィトンを抱える「LVMH」とグッチを擁する「ケリング」の両グループが、痩せ過ぎのモデルはファッションショーに起用しないことを決めたとの報に触れ、胃袋の話を思い出した
▼彼の地ではモデルに憧れた若い女性の拒食症が社会問題になっているという。人ごとではない。日本でも患者は増えているそうだ。先の昔話はそれぞれが大切な役割を果たしてこそ全体が成り立つと教えている。これを機に胃袋を困らせる悪しき習慣もなくなればいいのだが。