ロシアには「錐(きり)は袋に隠せない」ということわざがあるそうだ。錐がすぐ袋を突き破って出てしまうことから、うまく取り繕ったつもりでも隠し事は容易に露見することを例えたものという
▼おとといの日ロ首脳会談でのプーチン大統領の発言も、そんなことわざを地でいくものだったのでないか。安倍首相が北朝鮮に一層の圧力が必要と主張したのに対し、大統領は対話以外に道はないと強調したのである。これだけ聞くと北朝鮮の政情にも配慮した穏健路線のようだがそうではあるまい。徹底した制裁強化で国際世論を引っ張ろうとする米国への意趣返し。袋の中に隠そうとしている錐の先は、太平洋を挟んで東に位置する因縁のライバル国に向いているわけである
▼北朝鮮をだしに、自国の立場を少しでも有利にしようとの政治的駆け引きだろう。ロシアにはこんなことわざもあった。「熊が踊ってジプシーが金を取る」。北朝鮮を踊らせておくことで、存在感を発揮し発言力を高められるのである。いわゆる「一強」に陰りが見えてきたせいでもあるまいが、今回の会談ではさしもの安倍首相もプーチン大統領の策略にまんまとはまってしまったようだ
▼北方領土と北朝鮮、二つを人質にとられて確かに分は悪かった。とはいえ北方領土問題では共同経済活動5項目に合意したものの難航必至、北朝鮮に関してはほぼゼロ回答と何とも寂しい限り。プーチン大統領は今、してやったりの心境かもしれないが、独善に陥っていると、袋に隠した錐の先端が次は自分に向けて突き出るかもしれぬ。