真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第42回 株式会社スポーツビジネス研究所 代表取締役 今野 一彦さん

2011年09月26日 13時10分

 今野さんは、スポーツを軸にした地域振興に着目。3年前にスポーツビジネス研究所を設立し、各種スポーツ競技団体や自治体に向けたコンサルティング事業をはじめ、道内ゆかりのアスリートによる学校出前授業など教育事業も手がけています。観光庁が取り組む「スポーツ・ツーリズム」施策にも寄与し、北海道運輸局と共に「北海道スポーツ観光連絡会議」を発起。事務局を担い、スポーツを観光コンテンツと捉えた観光振興策の推進にも意欲的です。スポーツは「地域の財産」と話す今野さんに、スポーツビジネスの可能性について伺いました。

近年、国際舞台での日本人アスリートの活躍や大規模なスポーツイベント開催による経済効果がますます注目されていますが、諸外国に比べ日本ではまだスポーツを商材とした事業に馴染みが薄いように感じます。今野さんがお考えになる「スポーツビジネス」とは。

今野 一彦さん

今野 経済効果は、華やかなイベントやメジャースポーツによるものばかりではありません。特に地域とスポーツの関わりを俯瞰(ふかん)すると多くの可能性がみえてきます。例えば、網走が今、〝ラグビー合宿の聖地〟と呼ばれているのをご存知でしょうか。北海道は土地が広く、ヨーロッパ同様西洋芝が育つ植生です。網走はそこに目を付けました。

 網走は、流氷シーズンを除けば、多くの観光客が通り過ぎてしまうまち。そこで網走では周辺地域にも呼びかけ、20年前から町ぐるみでグラウンドの整備を始め、トップレベルで活躍する外国人スポーツ選手が「世界一の芝」と絶賛するほど、良好なトレーニング環境を整えてきたんです。

 現在、網走に6面、北見に12面、美幌、津別にも1―2面ずつ、素晴らしいグラウンドがあり、合宿時には網走や北見を中心に、国内トップリーグ、韓国のチームも含めおよそ60以上のラグビーチームが滞在しています。これによる経済効果を調べたところ、宿泊・飲食の費用だけでも各自治体平均1ヶ月で約6億円、移動交通費等も加えれば、約10億円以上と見込まれています。

 〝観光は水物〟が通説でしたが、スポーツ合宿は、景気や天候に左右されず、毎年予定通り実施されるもの。東日本大震災後、入込客数が激減している観光地も多いようですが、これらの地域は、スポーツ関連収益の維持ができたことで大きな影響を受けなかったと聞いています。

 「北海道スポーツ観光連絡会議」発会は、こうした成功例に学び、〝スポーツ観光〟の価値を多くの有志と共有することも目的です。現在、スポーツ関連団体、観光業界等に加え、合宿受け入れに関心の高い10市町村も参加。会での建設的な議論を醸成させ連携を強め、いずれは〝スポーツ観光〟推進を全道の取り組みにしたいと思っています。

今野さんが「スポーツビジネス」に着眼したきっかけは。

今野 以前公園の設計に携わっていた時、公園で遊ぶ子どもが少ない事に気付きました。家の中でゲームに興じる子どもたちのメンタル面の弱さ、飽きっぽさ、体力低下を懸念する報道にも危機感を覚えました。私は幼い頃からサッカーに親しみ、自らサッカーチームもつくるほど。自分自身スポーツの鍛錬に育てられた実感があり、子どもや社会とスポーツをつなぐ事業を構想するようになりました。

 学校出前授業では、たとえマイナースポーツと呼ばれる分野でも、アスリートの話に子どもたちは目を輝かせます。授業の終わりには「先生(アスリート)と同じスポーツをやりたい」と皆言うんですよ。スポーツの力や影響力を再認識しました。

 オペラやミュージカルは上質で評価の高いものを最初に見なさいといいますよね。スポーツも一流のアスリートに出会いその人のストーリーに触れることです。教育事業は、こうした心に響くファーストタッチを大事にしたい。同時に、引退したアスリートのセカンドキャリアの場として確立できるようスポンサー獲得にも力を尽くしていきます。

経済にも心にも生きるスポーツの恩恵をあらためて感じました。

今野 そのためには、どのような方法で生かしていくかも重要です。今年6月「北海道総合スポーツクラブ」の設立に参画し、アドバイザーを務めています。一口いくらかの支援金を集め、北海道のスポーツ全般を地域皆で支える一般社団法人です。支援に対するスポーツ選手の貢献は、試合に勝つ事ばかりではなく、地域に出向きトークショーやクリニックの開催、物産の広報協力等、地域活性や地域の課題を解決する一助も担います。

 今はプロバスケットボールチームのみの運営ですが、スポンサー企業の業績等に頼らず、北海道のスポーツと支援者がWIN・WINの関係で成る運営実現を目指し、まずは全道人口の1%ほどである5万5000人を目標に支援者を募り、底辺を広げる努力をしています。

 網走が地道に取り組んできた合宿受け入れには、〝スポーツ観光〟を切り口にしたプロモーションを提案、発信に努めました。地域づくりに奮闘される皆さんから「可能性を見いだせた」と言われた時は本当に嬉しかった。私の活動は間違っていないと励まされました。

 弊社の役目はスポーツを通した地域振興のマネジメントです。プロモーション下手と言われる北海道。その魅力が生かしきれなかったり埋もれてしまわないよう、これからも知恵を絞り、地域の人たちと共に汗をかいていきたいと思います。

取材を終えて

もっと上へ試行錯誤

 以前は建設業の現場責任者として、図面をもとに、道路や橋、公園等を造っていたという今野さん。その後、ご自身のアイデアを地域づくりの構想の段階から生かしてみたいと、設計や企画・マーケティング分野で実績を重ね、役割の幅を広げてこられました。信条は〝もっと、さらに、よい方法はないか〟と試行錯誤すること、と話す今野さんのチャレンジと、北海道でのスポーツビジネスの広がりに期待が高まるインタビューでした。


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