本橋さんは、昨年、故郷の北見市常呂町でカーリングチーム「ロコ・ソラーレ(太陽の常呂っ子を意味する造語)」を結成。カーリング競技女子日本代表「チーム青森」の一員として、冬季五輪に出場(2006年トリノ、2010年バンクーバー)後、チームを脱退しての始動。続くソチ五輪での活躍にも期待が高まる中、その決断は大きな話題となりました。常呂は、ご自身の〝カーリングの原点〟という本橋さん。拠点を移し1年。「馴れ親しんだ環境で大いに学ぶ日々」と、目を輝かせます。
常呂は、本橋さんがカーリングを始めた、いわばカーリング人生の出発点です。そこで得られる「学び」とは。
本橋 五輪でメダルに届かず、この先カーリングとどう向き合って行くか、岐路に立ち、帰郷を決断。常呂なら、腰を据えこれまでを振り返りながら進むべき方向を考えられる最適な場所ではないかと期待しました。
この1年はチームづくりに専念。メンバーは全員同郷。カーリングの専用リンクを日本で最初に備えた町で、小さな頃からカーリングに親しんできた者同士です。アイスにのれば皆童心に返り、アットホームな雰囲気になる。それが〝私たちらしさ〟だと思っています。
とはいえ、結成当初は、勝利を期待されているのではないかと、私に変なプライドやプレッシャーがあって。カーリングは自分自身と戦うスポーツ。相手の作戦にはまってしまったら、思うような試合ができない。いかなる局面でも心中悟られないよう、表情にまで気を遣うんです。
最も悔やむべきは、自分自身に負ける「甘さ」だと経験的に感じていましたし、はやく強くなりたくて、メンバーにもその厳しさを押しつけがちでした。そんな時、恩師(常呂カーリング協会初代会長・小栗祐治氏)に「肩の力を抜きなさい」と言ってもらえて。
メンバーの様子を一歩引いて眺めてみると、氷上で皆心から楽しそうだったんですよ。楽しさ=甘さだと否定せず、他にはない良さと捉えれば強みになるのではないか。どこかローカルで独特な存在感を醸している、憧れのスウェーデン代表の雰囲気にも重なりました。
思えばしばらく、勝利への執着や責任感から、〝楽しむ〟感覚を忘れていたんだと思います。彼女たちのおかげで、とにかくカーリングが楽しくて仕方なかった子どもの頃の〝柔らかい気持ち〟が取り戻せました。
今シーズンは、胸をはって「勝つために楽しくプレーする」と言える。それがチームの理念。どんな試合でもロコ・ソラーレらしさが健在する舵取りをして行きたいです。
チームを束ねる立場を担い、アスリートとしての意識に変化はありましたか。
本橋 長所は短所、逆に短所は長所だと多面的に考えられるようになりました。苦しい場面でもめげず優勢でも浮き足立たない。試合中、集中力を持続させるためにも役立つ視点です。
昨シーズンは初めてジュニアチームのコーチ業も経験し、選手目線で、選手が求めている指導を私なりに検討しました。心がけたことは、ほめること。そして選手の意見をよく聞き、それぞれの個性に合わせて向き合う事。不満があるのに我慢しがちな子には、個別に胸の内を吐露するよう伝え、あくまでも選手本人の意思を尊重し、全員から〝どう思うか〟を引き出すよう努めました。
甲斐あってか、強くなるために自分は何をすれば良いのか、一人一人がきちんと考えてくれて。個人のスキルも、互いを補い合うチーム力もめきめきと上がって行きました。
彼女たちは結成わずか3ヶ月で全日本ジュニア選手権準優勝。その快挙にささやかでも貢献できた充実感は格別でしたね。勝利の価値は相手を倒すばかりではない。チーム力をもってこそ、こんなにもあたたかい気持ちで噛み締めることができるのだと、あらためて学びました。
ロコ・ソラーレではキャプテン。これまでは、チームのモチベーションを下げたくなくて、不安も一人で抱えがちでしたけれど、今は、弱みはみせても良いんだと思えます。弱みさえも共有できる信頼関係が、チームの力を高める。ジュニアの姿勢から教えてもらえたことです。
ますます意欲的な様子に、〝原点〟に戻られたことは、本橋さんの進化の通過点なんだと実感します。
本橋 カーリングは、大会の規模にかかわらず、経験がものを言います。初対戦の相手にはびくびくしちゃうくらい、私なんてまだまだ。もっと強くなりたいです。今は、一戦でも多く、自分がよしと思える試合を重ねて行きたい。目の前の大会に集中し続け、気づいたら次のステージに立っていた、それくらい夢中でのぞんでみたいと思っています。
常呂も少子化。ジュニアのカーリング人口減少を目の当たりにし危機感も感じています。老若男女がカーリングを楽しむ様は、愛しい故郷の光景のひとつ。リンクは、世代を超えたコミュニケーションの場にもなっているんですよ。
競技スポーツであり生涯スポーツでもあるカーリングの奥の深い魅力を、次の世代へ永く途切れずに伝えて行きたい思いはあります。いずれは、北海道のウインタースポーツといえばカーリングと言われるように、カーリングの醍醐味(だいごみ)を、私たちのプレーから感じ取ってもらえたら嬉しいですね。
取材を終えて
自分らしさが人生の糧
恩師の指導は、一貫して「麻里らしくやりなさい」。子どもの頃から、どんなに緊迫する試合展開でもその言葉に背中を押してもらえたという本橋さん。今では人生の糧にもなっているそうです。先見と判断が、勝負を左右するカーリング。今シーズンは、選手たちと気持ちを重ねて、ストーンの行方を見守ってみたいと思いました。