真砂徳子の起ーパーソン 明日をひらく人々 第54回 クリプトン・フューチャー・メディア 代表取締役 伊藤 博之さん

2012年03月23日 12時14分

 2007年、クリプトン・フューチャー・メディア(本社・札幌、以下クリプトン)が開発・発売した音楽制作ソフトから誕生したバーチャルアイドル「初音ミク」。昨夏は米国ロサンゼルスで3Dによる初の海外単独ライヴが大盛況。米国グーグル社のCMにも起用され、その活躍と人気は、今や世界中に波及しています。愛らしい声質と風貌で、広くクリエイターの創作意欲を喚起する初音ミクの魅力。クリプトンは、ミクを題材とした自由な創作活動の支援を目的に、一定の要件を満たせば二次的著作物の公開を許諾する独自のガイドラインを示してコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」を運営。一般ユーザーが手掛けるさまざまな〝初音ミク作品〟創出と、各作品を組み合わせた創作コラボレーションの後押しなどにも力を注いでいます。

初音ミク人気を独占的に利用して利益をあげるのではなく、むしろ、健全に二次的著作物が公開できる枠組みをつくり、創作の輪が広がるよう腐心されているのはなぜですか。

伊藤 博之さん

伊藤 そもそも初音ミクは、音楽制作ソフトに収録されたバーチャルインストルメント。合成音声としての〝人の声〟を、ユーザーがよりリアルにイメージできるよう、声質に添うキャラクターをパッケージに表現したところ、多くの創作が生まれ人格のようなものが認知されるようになっていったんです。ソフト発売間もなく、ミクの絵を描く人や、3Dモデル、アニメーションをつくる人らが次々に現われ、関連創作物がネット上にあふれて。

 ソフトは音楽をつくる人に向けたものでしたから、驚きました。僕らの仕事は、お客さまの創作環境に必要な製品やサービスをご提供すること。〝クリエイターのためにクリエイトする〟、いわば「メタ・クリエイター」です。メタ・クリエイターとして、この豊かなムーブメントを持続的に定着させるために何をすべきか発想しました。

 当社の著作物である初音ミクをモチーフにした創作物の無許諾の公開は、著作権侵害にあたってしまう。そこで、独自のライセンス(許諾)を発効して皆が作品を公開できるようにしているんです。

 「ピアプロ」では、会員同士が作品を投稿してシェアできる上に、誰かの作詞と誰かの作曲で新譜が生まれたり、クリエイター間の「作品を使わせてもらった」「作品を使ってもらった」というコミュニケーションが生まれています。

 初音ミクをモチーフにした創作は瞬く間に増え、音楽、イラスト、コスプレ、ダンスの他、ミクを使ったテクノロジーの研究開発など、広がりは多岐にわたっています。

中には、10万枚以上売り上げてゴールドディスクを受賞したアルバムや、20万部も売る小説もあるそうですね。

伊藤 ピアプロへの投稿を機にメジャーデビューしたクリエイターには地方在住者もいます。注目すべきは、彼らが東京に出て行かなくても、ヒットメーカーとして活躍している現実です。

 僕らも札幌にいながら、地方に分散している有能なクリエイターと知り合え、協力して商品を制作し、世界に流通させている。〝個人がメディア化している〟昨今、ツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアは影響力を強め、地方で活動するクリエイターのコンテンツを、日本中、世界中に発信する上で、有効な手段となりました。

 札幌の会社で生まれた初音ミクしかり、それが消費行動に結びついた例も少なくありません。地方の人たちが、東京を飛び越えて、自分たちの強みや魅力を効果的にPRできる、飛躍のチャンスが巡ってきているんです。

 実は昨春から札幌市と連携し、こうした一連のプロセス実現に向けた実験に着手しています。動画共有サイトやツイッターやフェイスブックなどは、ユーザーの投稿データで生成しているサイト。コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア(CGM)とも呼ばれています。この特性を活用し、消費者でもあるユーザーとの共感を育みながら、観光や食など、市の優れたシーズをうまく複合して商品を開発したり、まちをプロモーションする仕組みの構築に力を注いでいるところです。

そのような仕掛けに、地域活性の鍵があると。

伊藤 他者からの信頼や評判に価値をおく「ウッフィー経済」という世界観があります。これまでその価値は、お金が基軸の「マネタリー経済」のように数値で明示しづらいものでしたが、ツイッターのリツイートやフォロワー、フェイスブックの「いいね!」など、個人の情報発信に対する他者の好評を〝みえる化〟するソーシャルメディアが世の中に登場し、その値による信頼で仕事が舞い込みマネタリー的に成功する人も出てきた。ピアプロに投稿していたアマチュアクリエイターが意図せずプロに転向できたのも、CGM型のサイトに寄せられる多くの高い評価や人気を獲得した結果でした。

 産業革命以降、人類はマネタリー経済を優先し近代化を遂げてきましたが、情報社会の進行で、ウッフィー経済との互換性はますます明らかになるでしょう。このパラダイムシフトの渦中で、いかにウッフィー値を高めていくかが、個人や企業、地域にとっても、大きな関心事。世界最大のSNSであるフェイスブックのユーザーは8億人以上とも言われています。他者の信頼や評価が糧となる優れたクリエイションの発信力は、地域発展の底力になると僕は確信していますよ。

取材を終えて

時代をとらえる視点

 第一の波(農耕社会)、第二の波(産業社会)を経た人類に、第三の波(情報社会)が押し寄せると著し、80年代に世界的なベストセラーとなった「第三の波」(アルビン・トフラー著)。トフラーの示唆にワクワクした中学生の頃の原体験が今の活動につながっていると、伊藤さんは話します。時代の波をとらえ、札幌を拠点に世界を席巻する伊藤さんのダイナミックな視点と志向に高揚を覚えたインタビューでした。


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