SF作家星新一のショートショートに「世界の終幕」がある。世界中のたくさんの家庭に、ある日小さな包みが配達されるところから話は始まる
▼入っていたのはダイヤルと押しボタンが付いた小型の機械。同封の説明書を読むと、全世界の核兵器を一挙に爆発させる装置だという。テレビをつけると、開発した科学者がこう語っていた。「ひとにぎりの人たちが握っていたその権限を、大衆の手に開放したのです」。大衆とはいかないものの、「俺にだけは押しボタンをよこせ」と要求しているのが、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長だろう。一握りの国だけが権限を持っているのはおかしいとの主張である
▼正論のようにも聞こえるが、実際は核の均衡を根底から覆す危険な考えというほかない。現行の核不拡散体制は理想の形ではないにせよ、長期的には核兵器廃絶を目指し、適正に維持管理できる5カ国にのみ保有を限って不慮の事態を避けようとするものである。独裁者のわがままが入り込む余地はない。国連安保理が11日、北朝鮮への追加制裁決議を採択した。石油輸出に上限を設けたほか、各種手立てで輸出収入の9割削減を見込むそうだ。6回目の核実験から時をおかず、中国とロシアを含む国際社会が足並みをそろえた意義は大きい
▼さて冒頭の装置の正体は、世界を終わらせようとボタンを押す危険人物を爆発させる仕掛けだった。金正恩氏が今しているのも似たようなこと。核実験のボタンを押すごとに、国も人民も著しく痛手を負っていく。行き着く先に平和な未来があるはずもない。