真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第3回 有限会社紫竹ガーデン遊華 代表取締役社長 紫竹 昭葉(しちく あきよ)さん

2012年08月30日 18時00分

 1万8000坪の庭園に2500種もの草花が折々の表情を見せる紫竹ガーデン遊華(帯広市)は、道内外から年間7万人もの見学者が来園する観光スポットとしても知られています。幼い頃から野山を遊び場に、野の花に親しみ育ったという紫竹さん。23年前、63歳で始めた広大な庭づくりは、時代の変遷で、次々に姿を消していった花のある野原を、再びよみがえらせたいという思いからだったと話します。

★紫竹ガーデンを開園されるまでは主婦業に専念され、いわゆる造園のプロではなかったと伺いました。野の花への愛着から、こつこつと庭づくりに取り組まれる紫竹さんの奮闘は多くのメディアでも話題となり、反響を呼んでいますよね。

紫竹 昭葉さん

☆紫竹 29年前に主人が他界し、その後4、5年は失意の日々でした。でも泣いて暮らしていては、天国の主人も安心できないと思い立ちまして。私らしく楽しく生きる新たな道を思案していた時、大好きだった、ある野原のことを思い出したんです。スズランが咲き乱れる、とりわけ気に入っていた場所でした。そこがいつしか整地されてしまっていて。口惜しさを思い起こし一念発起、ことあるごとに「花のある野原をつくりたいのだけれど」と周囲に相談し、農業に精通している友人の協力も請い、なんとか土地を購入しました。

 手に入れたのは郊外で耕作放棄された牧草地。国道からも遠く、わずかな防風林以外、思い描いていた森も林も泉もありませんでした。当時、造園や農業の知識も経験もなく、維持管理の費用や人手の準備さえままならなかった私の前途を、家族や親しい人たちはずいぶん案じてくれましたが、私自身は、植えれば木は増える、川もそばにあると、拍子抜けされるくらい庭づくりに前向きで。無鉄砲とも思える私を見兼ね、造園業や建設業に携わっていた旧知の方々が、植樹や周辺道路の整備などに一役買ってくださったことも励みになりました。

 その頃、東京で開催されていた奥峰子さん(ガーデンデザイナー)の個展を鑑賞しましてね。奥さんは修業の渡英から帰国されたばかり。私はそこで英国式の庭園というものを初めて目にしたんです。草花が多用されたお庭は新鮮で素晴らしかった。私が知る花のある野原と重なる趣もあって。彼女が手掛けた作品が設置されていた会場のじゅうたんごと空を飛んで、北海道に持ち帰りたいと思うほどの感動でした。奥さんに思いを伝えましたら、快くデザインを引き受けてくださって。今の紫竹ガーデンの原型ができる幸運な出会いでした。

★紫竹ガーデンは、いわば、十勝で生まれ育った紫竹さんの原風景を具現しているお庭だと思いますが、道外出身の私も、不思議と懐かしい気持ちに満たされる花園です。

紫竹 昭葉さん

☆紫竹 当園では、農薬や除草剤も使いません。培養土を使い肥料には頼らず、草花の成長を見守るようにお世話します。開園当初は土が落ち着くまで水をやりましたけれど、今は植え替えたもの以外には水も与えていないんです。ですから虫もいっぱい出るし、花も雑草も一緒くた。整然とした美しい庭園とは言えないかもしれませんが、自然の有り様(よう)そのままを大切にした庭だと思っています。

 野の花は、人知れず咲き、散り、種を落とし、また芽吹くものと、自然を観察したことのある人なら理解されているでしょう。紫竹ガーデンが、来園くださった方々のそんな記憶を呼び覚ます、癒しの庭であったとしたらうれしいですね。

★紫竹ガーデンに感じる独特の情緒は、紫竹さんの思いや生き方を投影しているからではないかと思いました。庭づくりを通して伝えたいことは。

紫竹 昭葉さん

☆紫竹 努力の醍醐味(だいごみ)と優しさでしょうか。これまでも、見聞きした知識と好奇心から、北海道と気候が似通う西洋の原種を植えてみて思うように育たなかったこともあれば、専門書で生育が困難だと学んだ品種が丈夫に育ったこともあります。開園して四半世紀足らず。机上だけでは及ばぬ庭づくりは一筋縄ではありませんが、大変だと感じるどころか、面白くて仕方がないんですよ。

 以前、当園におみえになった奈良薬師寺の管長さんから「花は仏様」と、お言葉を頂戴しました。仏様は慈悲深く皆に頼られるよりどころ。供花はまるで仏様の慈しみの心を表すかのようなたたずまいで、私たちを和ませてくれます。管長さんのお言葉に、花の本質然(しか)りと受け止め、今では私の糧になっています。

 近頃は、滞在して庭づくりを手伝いたいという方のための宿泊施設や、高齢者が集い庭づくりを共に楽しみながら暮らせるホームを設ける未来に思いを馳せたりもします。今日が楽しければ明日も楽しい。80を過ぎた私の、人生の実感です。好きで楽しくて、その上、お客さまに喜んでいただける庭づくりのおかげで、毎日が幸せ。庭づくりはまだまだこれから。北海道が、フラワーアイランドとなるいつの日かを夢見て、花のある野原を日々ゆっくりと育てていきたいと思います。

取材を終えて

華のような笑顔が印象

 紫竹ガーデンでは、野菜や果実も栽培。来園者は収穫自由で、庭園鑑賞をしながら食べることもできます。飼い犬同伴のお客さまも多く、肩肘張らない光景が、庭園を一層大らかな空気で包んでいました。ただひたすら花に遊ぶ、を意味する園名「遊華」は、ご自身の信条という紫竹さん。野の花の〝ありのまま〟を愛でる紫竹さんの華のような笑顔が心に残るインタビューでした。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 川崎建設
  • オノデラ
  • web企画

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,387)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,274)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,253)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,098)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (918)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。