真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第5回 一般社団法人北海道総合スポーツクラブ 理事長/プロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」選手 折茂 武彦(おりも たけひこ)さん

2012年09月21日 14時07分

 昨年、改称し始動したプロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」。一般社団法人北海道総合スポーツクラブ(以下、社団)は、前身の運営会社が、経営不振を端に日本バスケットボールリーグ(JBL)から除名され、運営母体を失ったチーム存続の危機に、折茂さんら有志によって創設されました。選手と理事長の〝二足のわらじ〟で、チームの再出発に奮闘する折茂さんにお話を伺いました。

★折茂さんは長年、名門チーム「トヨタ自動車」の中心選手として活躍し、数々の国際大会で、日本代表の勝利にも貢献されてきました。運営側も担うほど、北海道を拠点とする一プロチームの継承に注力されるのはなぜでしょうか。

折茂 武彦さん

☆折茂 北海道にプロチームが誕生すると聞いたのは36歳の時でした。実業団チームの選手は、親会社の社員。たいがいは30歳くらいを境にバスケをやめ、会社員として勤務し続けます。でも自分にはバスケしかない。コートの上に立つ事が、他の何をやるよりも一番輝ける。これほど打ち込める仕事を、ほかには思いつかなくて。同じ頃日本代表にも復帰でき、この機会に北海道でプロに転向し、自分がどこまでやれるのか賭けてみたいと思ったんです。

 移籍するまでの僕は、ファンの存在を特段気に留めることもなく、自分やチームのために、いかに試合で自身のパフォーマンスを発揮するかに専念していました。ところが北海道では、開幕戦から会場に溢れるほどの観客。その人数は毎回絶えません。通常のリーグ戦でこれほどのファンが集まることに驚いて。時には10連敗も喫するチームを、諦めず応援し続けてくれる皆さんの心強さを肌で感じ、ファンのために勝ちたいと思うようになりました。

 JBL除名後、ファンの方々からも署名や募金の支援をいただきました。事態の好転を望んでいましたが、間もなく東日本大震災が起き、新たな運営企業候補との交渉が頓挫。僕は、北海道には地元ファンと選手が密接なプロバスケットボールチームがあることを、他のチームの選手にも、もっと知ってもらいたいと思っていましたから、どうしてもチームを無くしたくなかった。チームが消滅すれば、大切なファンを悲しませるだけではなく、バスケットボール界にとっても大きな損失だと考え、運営に名乗りを上げたんです。

★選手が運営母体の理事長を担われるのは、団体プロスポーツ界では異例だと聞きました。折茂さんの責任と重圧は相当なものと想像します。

折茂 武彦さん

☆折茂 社団設立後は、JBLの承認にかなう運営資金を集めるために、毎日分刻みでさまざまな企業を回り、協力を求めました。あの時は先行きが全く読めない不安で眠れない夜が続き、8㌔痩せて。交渉を重ねようやくJBLに承認されたのは開幕の2カ月前でした。その間、チームメイトたちには、承認されるか否かわからない状況で待たせるわけには行きませんから、良い条件があれば他へ移籍してくれと伝えていました。でも、選手の半数が、新チーム立ち上げを信じて、待っていてくれたんですよ。

 その後、公募でチーム名を「レバンガ北海道」に改称。トライアウトなどで選抜した新メンバーも加わり、悲願の開幕を迎えられたんです。レバンガ北海道は、2戦目で早くも勝利。その1勝の重さに、思いのほか「じーん」ときて。理事長として、新チームが無事立ち上がりファンの人たちに勝利を見てもらえた安堵(あんど)からなのか、一選手として、チーム存続のために時間を割きながらも結果を出せたからなのかは分からないですけれど、格別な勝利でしたね。

★レバンガ北海道は5位で、昨シーズンを終えました。北海道のプロバスケットボールチームとしては、最高位だったそうですね。

折茂 武彦さん

☆折茂 専用体育館がないとか、移動時間が長いとか、今までは口をついた勝てない言い訳を、昨シーズンは誰一人言わなくなりました。選手それぞれが1戦1戦、目の前の試合に集中し、連敗してもすぐに気持ちを切り替え、最後には怒濤(どとう)の7連勝。プレーオフ争いに食い込む健闘でした。リーグ戦7連勝はJBLの記録です。一度は消滅しかけたチームが再び試合に出場できるようになり、皆が一戦の尊さを受けとめていたのではないかと。心を一つに臨んだ結果だと思います。

 レバンガ北海道の活動は、スポンサー収入のみならず、個人や企業を募った支援団体の年会費にも支えられています。そもそもは自分が輝ける場所に居続けたいと切望した移籍でしたが、今後は、ファンとともにチームが輝き、地域も輝く、運営事業にもさらに力を注ぎたいですね。

 「吐」くは、口に「+(プラス)」と「-(マイナス)」と書きます。マイナスをとれば「叶」うになる。理事長として奔走し不慣れな交渉事が続いたときは、驚くほどネガティブな感情になったこともありましたけれど、ファンや周囲の前向きな言葉に元気づけていただきました。これからも課題は山積みですが、吐くならポジティブなことを吐いて頑張って行こうと。

 今40を過ぎ、ここ北海道で、僕のバスケ人生の新たな一歩が始まったと思っています。

取材を終えて

スポーツ界進展に尽力

 折茂さんは、トヨタ入社2年目に「バスケに専念したい」と会社に申し出て、いったん退職。その後、バスケ専業の契約社員で再雇用されるなど、既存のシステムにとらわれない先駆的言動の選手としても注目されてきました。今後も〝変えられるものは変える〟信念で、スポーツ界の進展に尽くしたいと話す折茂さん。バスケへの情熱と地元ファンへの感謝を糧にする折茂さんのリーダーシップとレバンガ北海道の躍進が、ますます楽しみになるインタビューでした。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • オノデラ
  • 川崎建設
  • 古垣建設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,385)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,272)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,251)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,098)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (918)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。