類いまれな知性を持ちボクシングの腕はプロ並み、バイオリンの名手でもあるといえばもうお分かりだろう、推理作家コナン・ドイルの創作による名探偵シャーロック・ホームズである
▼そのホームズが『緋色の研究』で推理の極意をこう語っていた。「事件を解くにあたって大切なのは、過去にさかのぼって逆に推理しうるかどうかだ」。与えられた結果から、なぜそこに至ったかを見抜く分析力が必要というのだ。架空の人物と分かってはいても、現実に難しい事件が起きるたびホームズが今いればと考えてしまう人も少なくないだろう。埼玉、群馬両県の総菜販売店「でりしゃす」系列店の商品が原因となった腸管出血性大腸菌O157感染拡大もそんな事件の一つでないか
▼22人もの感染者が出て、痛ましいことに3歳の女児一人が亡くなっている。それなのに感染経路はいまだ不明のまま。食べた人はそれぞれ別の店舗で総菜を買っていたにもかかわらず、同時期に発症している。不可解というほかない。系列店では惣菜を皿に盛り、客が備え付けのトングで自由に取り分ける方式をとっていた。このため前橋市保健所は何らかの原因でトングにO157が付き、使い回しによって広がった「二次汚染」の可能性を指摘しているという
▼ただ、それでは複数の店でほぼ同時に感染が出たことを説明できない。どこかに見落としはないのだろうか。感染経路が特定されなければ対策も不十分なものに終わる。消費者の不安を拭い去るためにも、関係者にはホームズ並みの分析力を発揮してもらわねば。