真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第13回 作家 千石 涼太郎(せんごく りょうたろう)さん

2013年02月01日 16時40分

 「やっぱり北海道だべさ!!内地の人にはわかんないっしょ」(勁文社)や「なまら北海道だべさ!!」(双葉社)など、北海道特有の風習や道民性を詳述した著書でも知られる千石さん。北海道初の事象やモノの誕生ドラマをつづった最新刊「北海道はじめて物語 北の大地の発祥と起源なんだわ!!」(廣済堂出版)も人気です。2008年に東京から北海道へ移住。現在は文筆業に加え、小樽ふれあい観光大使や「北海道ワインツーリズム」推進協議会の会長を務め、地域振興の旗ふり役としても意欲的に活動されています。

★「やっぱり北海道だべさ!!」の初版は1996年です。地方の個性に着眼した著作は画期的なものだったのではないかと想像します。

千石 涼太郎さん

☆千石 学生時代に観たニュース番組で、全国放送にもかかわらず、自宅にジンギスカン鍋を常備しているとか、カツゲンを飲んだことがあるとか、道外の人にとっては珍しいけれど、道民にとってはごく日常的な風俗や習慣を特集していたんです。

 北海道は私の故郷(千石さんは小樽市のご出身)。父の転勤で小学5年生の時に転居しその当時は既に道外に住んでいましたが、私にとっては親しみのある内容でテレビの前で大笑いして。ユニークな切り口だなと印象深く、新卒で入社した出版社で、早速北海道本の制作を企画したんですが、全国的な売り上げは見込めないだろうと、出版はかないませんでした。

 出版社では、編集者として、UFOや霊能力などの本も手掛け、全国各地の、いわゆる〝噂の現場〟もよく取材したんですよ。退職後フリーになってからも、4WDの車専門誌で旅行作家をし、アウトドア雑誌の編集長も務め、取材で津々浦々を巡る日々。そこで、地域それぞれのユニークな特性を目の当たりにしたんです。

 その頃、長野県の風俗に着目した実にローカルな書籍がヒットし注目されていて、再度北海道本の執筆を思い立ち、「やっぱり北海道だべさ!!」を出版。翌年には、これまでの見聞をヒントに「県民性の謎―全47都道府県に潜む『現代日本人気質』とは」(朝日ソノラマ)を上梓し好評で、北海道本出版を皮切りに、県民性や地方文化に関する著作で、広く支持いただけるようになりました。

★活動の拠点を北海道に移したのはなぜですか。

千石 涼太郎さん

☆千石 執筆のネタを集めるために、東京在住時から北海道の新聞も購読していました。はしりのインターネットに目を付け、いち早くつくったホームページで、全国にいる北海道通や北海道出身者とも積極的に交流。私がまとめ役になって、彼らと北海道コミュニティーも発足させ、ネット上だけではなく、地方のメンバーが上京する際には顔を合わせ頻繁に情報交換していました。

 いつしか、北海道出身者のUターンや北海道に移住を希望する人たちの相談にも乗るようになって。取材のほか、北海道ローカルのテレビ番組やイベント出演で北海道を訪れているうちに、道内に友人や知人も増えていき、北海道が一層馴染み深い土地になりました。

 10年前に脳出血で倒れ、その後母が亡くなるなど、今後の人生を考える出来事も重なりまして。人生の節目に、あらためて、これからはもっと世の中に貢献できるような活動に携われたらと。道民読者から、道外からの視点で、地域振興をけん引してもらいたいという声もいただいて、奮い立つ思いもありましたね。北海道本出版が契機だった作家稼業。故郷への恩返しを胸に、北海道に骨を埋める決意をしました。

★千石さんの著書を読み、あまりにも身近で今までは見過ごしていた北海道の魅力に気付いた道民も多いのではないかと思います。千石さんがお考えになる北海道活性の鍵とは。

千石 涼太郎さん

☆千石 時折、残念ながら「いらっしゃいませ」も聞こえてこない飲食店があったり、東京のレストランの洗練されたサービスが過剰だと思い込んでいる道民の方にお会いします。私は、旅やグルメ本の出版で全国各地の飲食店も取材しました。持論ですが、料理の味だけではなく、来店前の予約電話などの応対で「前味」に配慮し、食事の時間と空間の充実させる「中味」を考慮し、心を込めたお見送りで「後味」に腐心する、ホスピタリティの「三味」に長けている店には、格別の魅力があり、実際顧客も多いんです。

 優しく温かい人柄は道民の長所だと思います。それが表現方法を知らずに伝わっていないとしたら口惜しいこと。執筆や講演では、私の知る限りで道外の優れたおもてなし事例などとも照らし、特に〝伝わるホスピタリティ〟の重要性を呼び掛けています。

 私の北海道本の売り上げの半分くらいは道外です。新千歳空港内の書店の売り上げが顕著というデータもあり、道外読者の多さを想像します。それほどに北海道は魅力があるという証。これからは、その魅力にいかに気付き磨きをかけるかだと思うんですよ。草の根的ですが、私の鼓舞や働き掛けで、一人でも多くの道民が、北海道の潜在力や可能性を意識し、地域興しに立ち上がってくれたら本望ですね。

 作家は、ともすれば読者の人生にも影響する仕事。私自身、あるノンフィクションに心動かされ退職。そのような本が書きたいと強く思い、物書きの道に踏み出しました。いつかは私も、誰かの眠っていた力が目覚めるような、人生までも変えるような本が書けたらと。構えず誠実に、物書きの責務を全うしていきたいですね。

取材を終えて

深い洞察と優しい視点

 子どもの頃から社会人になってもしばらくは、人前に出ると緊張する〝恥ずかしがり屋〟だったという千石さん。地域振興に駆り立てられるのも、シャイな道民性に共感できるからかもしれない、とおっしゃいます。作家の道を決意するきっかけとなった「日本海のイカ」(足立倫行著)には、弱さをさらけ出せる人間の強さを感じた、と話す千石さんの深い洞察と優しい視点を知るインタビューでした。


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