真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第14回 北海道医療大学薬学部准教授 堀田 清(ほりた きよし)さん

2013年02月15日 15時37分

 堀田さんは漢方と薬用植物学の研究者です。500種類以上もの植物が自生する薬学部附属北方系生態観察園の担当者でもあり、四季折々園内の植物の営みをつぶさに見つめています。雪を割って顔を出す若芽の様子や、開花の尊さなどから感じられる力を「植物エネルギー」と表現する堀田さん。その瞬間をカメラに収め、各地で写真展も開催。写真エッセイ集「植物エネルギー 北方系生態観察園の四季」(北海道新聞社)、「びふか松山湿原の植物エネルギー」(植物エネルギー)も出版され、好評です。「植物エネルギーのメッセンジャーでありたい」とほほ笑む堀田さんにお話を伺いました。

★堀田さんが熱心に伝える「植物エネルギー」の意義とは。

堀田 清さん

☆堀田 僕は長年、有機化学の研究に携わっていました。新薬開発など最先端を究め競う世界で体力的にも精神的にも疲弊し身体をこわしまして。研究競争にはきりがありません。そこに挑んできた自分を見つめ直した時に、道医療大の生薬学教室に招いていただいたんです。

 とはいえ、有機化学とは畑違い。恥ずかしながら当時の僕は、名称も定かでないほど植物について知らず、園内の植物を撮影し始めたのも、少しでも知識を増やしたい思いからでした。芽出しから枯れるまでを追う日々は、想像を超える感動に満ちていました。形態がまったく違う芽が、花が咲いて初めて同種だと知った時には、仰天しましたね。

 僕がそれまで費やしてきた西洋医学や化学などは、〝人は皆同じ〟が前提の学問。しかし東洋医学は、〝100人いたら100人違う〟ことに基づいています。もっと言えば、生まれ来る細胞の数と死に行く細胞の数は日により違うわけで、一人の人間でも今日と昨日は違うんですよね。

 極意を目の当たりにし、研究の優劣に一喜一憂していた以前の自分を思いました。人はそれぞれ違うから素晴らしいのだと植物が教えてくれたようで、心が熱くなって。驚いたことに、撮り続けているうちに持病も完治。95㌔もあった体重はダイエットすることもなく1年で20㌔近くも減り、みるみる健康体になっていきました。

 「植物エネルギー」は、植物から元気と勇気をもらった僕の実感がこもった言葉です。広く伝えていくことは、「心身一如(漢方の基本理念で、心が元気になれば身体も健康になる意。)」に通じていると確信しています。

★堀田さんの写真の多くは接写です。植物の息づかいを感じるとともに、植物に対する堀田さんの温かいまなざしを想像します。

堀田 清さん

☆堀田 実はかつて観察園はけもの道さえない荒れ山だったんです。1997年に僕の恩師が研究施設として活用できる豊かな里山に再生させようと提案。散策路を設(しつら)え市民にも解放する、他大学に類のない場づくりを目指した発起でした。僕も有志に名乗りを上げ、繁茂したササ類を刈り取るなど地道な整備に協力し、現在のようなフロラ(植物相)が生まれたんです。手塩にかけた森です。

 どの植物もたまらなく愛しく、それぞれの一生の機微を大切に撮ってあげたいと思うんですよね。シャッターチャンスは、ひときわ色鮮やかなおしべに引き付けられたり、日差しを浴びた茎の一点に釘付けになったり、「撮って」と言わんばかりにオーラを放つ植物が目に飛び込んできた時です。その一瞬を逃さずシャッターを切ると、ファインダーを通し、植物エネルギーが僕の身体を巡っていくのが分かります。

 中でも雪解け後の芽出しのエネルギーは極上です。潜季の冬に思い温めてきた植物の躍動感がみなぎり、撮影している僕の中にも、とてつもない力が沸き上がってくるんです。植物の前向きなパワーは写真からも溢れています。うれしいことに、僕の写真をご病気のご家族やご友人に贈ってくださる方も多くて。心のクスリになっていれば、薬学者としてもこの上ない喜びです。

★北方系生態観察園の植物の種類は増え続けていると伺っています。札幌から1時間ほどの場所でありながら、希少な小動物や昆虫も住んでいるそうですね。感激しました。

堀田 清さん

☆堀田 そもそも石狩平野に位置するこの辺りは大湿地帯で、居住地や農耕に適(かな)う土地に改良するために、近辺の山の土などを客土し、今に至るのだそうです。つまり観察園は、土を掘りつくされた山が再生したもの。「ゼロを1にする」のではなく、「マイナス1を1にする」試みだったんですね。

 地球上から植物がなくなれば、あらゆる有機生命体が絶滅することは自明の真理ですが、実際は、人間社会の都合で、地球全体の植物は減り続けています。植物の減少は、地球が病気になっている証。温暖化は地球が熱を出し苦しんでいる状態なのでしょう。大本の地球が病んでいるのに、人間だけ元気になろうなんて無理な話なんです。襟裳岬の緑化のように、100年後、200年後を見据え、自然の再生に着目した公共事業が、もっと増えてもいいと思うんですよ。観察園の里山化も、ささやかなアクションかもしれませんが、未来へつなげていきたいですね。

 植物エネルギーは、いつも通る道の傍らにも宿っているんですよ。時には足をとめ、道端の植物に目を向けてみてください。きっと、地球と宇宙と調和した植物の素敵な生き方に、感動していただけるはずですから。

取材を終えて

希望にあふれた笑顔

 お正月休み以外、毎日早朝出勤し、観察園の植物たちとあいさつを交わすという堀田さん。冬の森では、雪の下で芽吹きの春を夢見る植物たちと思い重ね、摂理に委ね待つことが、いかに豊かな時間であるかを学んだとおっしゃいます。植物たちと通い合う堀田さんの感謝と希望に満ちた笑顔が、深く心に残るインタビューでした。


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