真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第24回 株式会社プリズム代表取締役 映像プロデューサー 深津 修一(ふかつ しゅういち)さん

2013年07月19日 18時43分

 プリズム(本社・札幌)は、日本初導入の映像投射式ドームの演出や、「さっぽろ雪まつり」の雪像にも映像を投影し注目されたプロジェクションマッピングなど、先駆の設備と技術を用いた映像事業を幅広く展開しています。近年は北海道を舞台にした映画製作にも着手。公開中の「じんじん」は深津さんがゼネラルプロデューサーを務め、従来の劇場興行に加え、小規模な自主上映会にも広く配給する〝スローシネマ〟も実施し話題です。道内を拠点に、先見の映像エンターテイメントで新風を吹き込む深津さんの思いを伺いました。

★深津さんが手掛ける映像エンターテイメントは、新奇性に富み、感動もひとしおです。

深津 修一さん

☆深津 起業は、既成概念にとらわれない映像演出を志してのことでした。私は、恵迪(けいてき)寮に憧れ、愛知県の高校から北大に進学。映画サークルの仲間と資金を出し合い、馴染みの喫茶店で16㍉フィルムの上映会を開催するほど映画に傾倒し、卒業後は、映画フィルムをレンタルする会社に就職したんです。

 時代は移りビデオが普及し始めると、当然フィルムレンタルの需要も減少。仕事に行き詰まりを感じる中で、撮影機材や映像機器の貸し出し、オペレーションなどを請け負い、将来を模索しながら、気付けば40歳。定年までをカウントし焦りを感じていたころ、札幌を皮切りにシンディ・ローパーのジャパンツアーが始動し、その演出スタッフとして、フィルムの扱いに慣れていた私に声がかかったんです。

 役割は、彼女のイメージに添う映像を編集し、ステージ上で動き回る彼女の服の胸部にその映像を映すことでした。仕事ぶりが評価され、請われてその後もツアーに同行。一流アーティストのクリエイティブな熱に触れたこの経験で、映像の可能性に開眼しました。

 私の脳裏には、その当時誰も試みていなかった演出のイメージやアイデアが次々と浮かび、想像するだけで高揚して。映像エンターテイメントの新境地を拓(ひら)く気概で脱サラし、会社を立ち上げました。

★「じんじん」の舞台は、剣淵町です。日本の原風景を思わせる農村の情景や人情、親子の絆の尊さにはせる作品で、今の日本が失いつつある大切な何かを思う映画でした。

深津 修一さん

☆深津 「じんじん」は、主演の大地康雄さんの企画でした。剣淵町は地域活性に腐心し、「絵本のまち」づくりを推進する町。大人たちが取り組む絵本の読み聞かせで子どもたちが目を輝かせる様子に、大地さんは日本の明るい未来を重ねたそうです。

 私もほれ込んだ映画です。観ていただければ良い作品だと満足してもらえる自信はあったものの、一見で人目をひく派手さには欠けるため、動員を懸念。スローシネマという仕組みを思いつきました。スローシネマでは、主に市町村を対象に映画を配給し、映写の設備に至るまで私たちが相談に応じます。売り上げの多くは私たちが頂戴する代わりに、興行が赤字になった場合の負債も私たちが負います。市町村は興行の赤字の心配をせず、上映会を開催できるんです。

 この仕組みで映画の製作費を回収できるようになれば、映画業界の振興にもつながります。そこで何よりも大変なのは、各自治体で上映会開催をゼロから組み立てる作業。皆で手を取り合い、最善を尽くし、問題が浮上したときにも知恵を出し合い解決する。こうしたプロセスこそが、スローシネマの最大の意義だと思っています。

 地域が一体となって上映会を盛り上げたという実績が彼らの成功体験となり、次なる別のチャレンジを促すきっかけになれば。スローシネマの根底にあるのは、社会の縮小化もいとわず、ゆるやかに、前向きに、地方から日本を変えていこうという思想。おかげさまで、各地で続々とスローシネマ上映会が実現しています。

★北海道を起点に、スローシネマという新しいかたちの映画産業振興と、地域振興が動き始めているんですね。

深津 修一さん

☆深津 私の拠点はあくまでも北海道。北海道への愛は、私のモチベーションです。ここに根付き、映像を軸に新しい価値を創造するチャレンジをし続け、北海道の底力をもっと発信していきたいですね。

 今は、新たな映像演出にも乗り出しています。アクション俳優やスタントマンのマネージメントを担う東京のプロダクションとコラボレーションし、世界にとどろく日本のアニメーションを題材に、リアルとバーチャルを融合させた前代未聞のステージを志向中。いずれは、エンターテイメントの殿堂・ラスベガスでの常設ショーを標榜する壮大な計画です。

 その第一弾として、昨年東京で、アニメーション「タイガー&バニー」をライブ化し、17公演行いました。トータル1万7千席分のチケットに、30万件もの応募があり、チケットは即完売の人気。ステージに感激した大手ゲームメーカーから、早速自社ゲームのライブ化を求める声も上がる高評価で、手応えを感じました。

 北海道の一企業が、世界規模のエンターテイメントを実現したら痛快でしょう。夢や希望を抱きづらい現代の風潮に風穴が開けられるんじゃないかとも思うんですよ。あきらめなければ、夢は必ず実現する。映像の力を通し、今後もネバーネバーネバーギブアップの精神で、挑戦の醍醐味(だいごみ)を、次の世代にまで伝えていけたら本望ですね。

取材を終えて

情熱と展望に胸高鳴る

 大学時代、〝人生の幸せとは〟を示唆する名作「市民ケーン」に圧倒的な感動を覚えたという深津さん。映画の力を痛感し、その後の進路を決意したのだそうです。世の中を明るく照らす映像を、と話す深津さんの情熱と展望に胸が高鳴るインタビューでした。


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