真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第25回 株式会社マミープロ代表取締役 阿部 夕子(あべ ゆうこ)さん

2013年08月02日 16時31分

 マミープロは札幌を拠点に、妊娠・出産時から小学生まで、子どもの成長に添うきめ細やかな子育て情報を発信するサイト「ママNavi」を運営しています。ユーザー会員は1万9000人ほど。2006年の開設以来、月間30万ものアクセス数を誇る人気サイトとして定着し、子育て中の女性をターゲットにした企業のプロモーションや、商品の開発などの事業も幅広く展開しています。子育ての経験が生きるビジネスに着眼する阿部さんにお話を伺いました。

★起業の経緯は。

阿部 夕子さん

☆阿部 起業前は、札幌市内のパソコンスクールで講師をしていました。今から20年ほど前、ビジネスマンやOLを対象にするスクールが多い中、勤務していたスクールは、当時としては珍しく託児室を設け評判となり、お母さんたちの口コミで生徒さんがどんどん増えていったんです。子育てをしながら社会復帰に役立つスキルを身に付けようと奮闘する女性のニーズに触れ、希望する生徒さんを人材派遣会社にご紹介するなど、就職の道筋をつくるお手伝いもしていました。

 この間、私も出産し、社会と隔絶されているような気持ちになりかねない子育て中の心細さを実感。社会復帰を望むお母さんたちにもっとスクールの存在を知っていただきたくて、私の提案でフリーペーパーによる広報にも着手しました。営業なんてまったく未経験だった私が、スポンサーを集めるために奔走。使命感にかられ、飛び込み営業も厭(いと)わぬ行動力を発揮したことには、われながら驚きました。

 営業を通し、多くの異業種企業と信頼関係を築いていく喜びにも開眼。バイタリティー溢れる経営者の方々とも巡り合い、大いに薫陶を受けました。スクールでは取締役に就任し、経営の醍醐味(だいごみ)を知るにつれ、仕事がますます面白くなって。40歳目前。人生の岐路に立ち、子育て支援を柱にした起業で、どれほど社会に貢献できるのか、残りの人生に賭けてみたいと思いました。

★マミープロは、社会貢献とビジネスを両立している企業としても知られています。09年には「ソーシャルビジネス55選(経済産業省主催)」にも選ばれ全国的に注目されました。経営の鍵は。

阿部 夕子さん

☆阿部 以前から、子育てに関する首都圏発信のサイトは存在していました。私も活用していましたが、自分の住んでいる地域の子育て環境が把握できるもっと身近で実用的な情報があればと、物足りなさを感じていたんです。

 そこで、札幌発信の「ママNavi」を核に事業を構想。パソコンスクールのフリーペーパーづくりで培ったノウハウを生かし、弊社がWebサイトの編集部として機能し、スポンサー企業から広告掲載費として運営資金を募る収益モデルであれば、継続的に事業を展開できると思いました。

 サイトの価値はユーザー数とアクセス数です。開設当初は、まだWeb広告の効果に不信な企業も多く、スポンサー集めには苦労しましたが、マミープロの強みは、私も含めスタッフ全員が子育て中のお母さんだということ。ユーザーと同じ目線によるサイトづくりで、有り難いことに、〝こんなサイトを待望していた〟というお母さんたちの好評が口コミで広まって、ユーザー数もアクセス数も順調に伸びていきました。それに伴い、企業からは、広告掲載だけではなく、主婦層向けの商品プロデュースやプロモーションなどのご依頼もいただくようになって。

 子育ての経験が、お母さんたちと企業双方のニーズにかなう情報やサービスを提供する原動力となり、子育て支援という社会貢献の土台もありながら、株式会社としてビジネスも成り立っています。

★子育てを社会に生きる経験と捉える阿部さんの起業は、女性の生き方の可能性を広げるものだと感じます。

阿部 夕子さん

☆阿部 私も出産前は、子育てとキャリアの折り合いを付けるなんて難しいと思っていました。でも実際は、子育て経験あってこその仕事で、人生の選択肢が狭まるどころか、より豊かに生きる道を、身をもって体験しています。マミープロの取り組みが、社会復帰の機会を窺(うかが)うお母さんたちの手掛かりになれば、うれしいですね。

 2年前から本格的に社員研修を始め、弊社スタッフのキャリアアップにも力を注いでいます。おかげさまで、スタッフが力を付けるほどに、組織力も向上。過剰な責任感から、企画も営業も、と背負い込みがちだったこれまでのひとり相撲を省みました。

 近頃は、彼女たちが成長し、さらに生き生きと活躍する姿を見ることが本当に楽しみで。スタッフの将来を見据え、彼女たちがたとえ他の会社や業界に転職したとしても、そこで重用されるくらいの実力が身に付くよう、できる限りを尽くしています。

 マミープロのスタッフは、「退職」を「卒業」といい、退職してから起業したり、新たな世界で引き続きキャリアを重ねる者も少なくありません。マミープロが、女性のスキルアップを図るための会社であってもよし。多くのお母さんたちの埋もれていた能力が開花する機会を提供でき、社会で輝く女性を増やしていけたら。それが私の究極の使命ではないかと思うんですよ。

取材を終えて

笑顔に優しさと強さ

 日常娘さんが発する何気ない一言や学校からもらってきたチラシに目を通している時などに企画のヒントを得ることもあるという阿部さん。子育てそのものがビジネスにつながり、ワクワクするんですと声を弾ませます。家事と仕事の境界にとらわれず、軽やかに活躍する阿部さんの笑顔に優しさと強さを思うインタビューでした。


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