真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第34回 東京農業大学教授 木村 俊昭(きむら としあき)さん

2014年01月17日 16時36分

 アイデアと実行力で地域を元気にする〝スーパー公務員〟として知られていた木村さん。小樽市職員時には、歴史的建造物の再利活用、職人のまち・小樽の世界発信、小樽ガラスのブランド化、お年寄りが「まちの語り部」を担う教育事業で世代交流を促進するなど、数々のまちづくりプロジェクトを構想・実現しました。その後、内閣官房・内閣府企画官(地域活性化担当)、農林水産省大臣官房企画官を歴任し、地域活性化の政策立案や全国各地の地域活性の調査研究、推進にも専心。現在も大学での教ベんや地域プロデューサー育成塾を主宰し、人財養成に尽力されるほか、講演活動などで津々浦々を奔走し、地域活性の後押しに力を注いでいます。

★木村さんはなぜ公務員を志したのでしょうか。

木村 俊昭さん

☆木村 西興部村で生まれ、遠軽町で育ちました。高校時代の生徒会の取り組みで、町民インタビューを試みた際、多くの人から「働き先は役場と信用金庫くらい。農業も先行き厳しい状況だから、いつかは町を出て行かざるをえない現状を認識し高校生活を送りなさい」という声を聴きましてね。これほど悲しいことはないと思いました。その時、将来は役場の職員になると心に決めたんです。住んでいる人たちが地域に愛着と誇りを持つまちづくりを実現したいと奮い立ちました。

 大学では、行政法などの法律に加え、日本の地域の現状や課題、その解決についてしっかり学ぼうと、都市政策の先生について各地を回りました。先生は「横浜みなとみらい21」も手掛けた権威。日本の地域づくりをけん引する師の下で、修業を積みました。

 大企業志向の時代でしたから、人口2万人ほどの遠軽町に就職を希望する私に、先生は随分と関心を持ってくれましてね。規模にかかわらず世界に先駆けた自治体を目指せと薫陶を受け、大学卒業後に帰郷。しかし遠軽町役場には大卒募集がなく、子どものころからよく訪れ、地元同様に親しみのあった小樽市役所に就職したんです。

★スーパー公務員の活躍は、地方の時代に期待が高まる中で注目されました。

木村 俊昭さん

☆木村 少子高齢化は顕著。今もなお、地域の疲弊に拍車が掛かる一方です。心掛けてきたことは、そこで生活する人たちの〝全体最適化〟を図り、身の丈にあったやり方で「できない」を「できる」に変え、自然と地域に活力が生まれる仕組みをつくることでした。

 例えば、温泉街や商店街の活性を個別に進めても、市民全体の所得水準が上がるとはいえない。刹那的で、しかも〝部分最適化〟な取り組みは、地域が活性するどころか、かえって後退してしまった例も少なくありません。

 私は、6次産業化などを目指す農村地域に協力を求められれば、やみくもに加工品の開発や販売にチャレンジする前に、まずは地域の有志に収穫を手伝っていただきましょうよ、とアドバイスします。その農作物を、もしお子さんやお孫さんの誕生日の贈り物にするならジュースやジャムに加工できますよ、と提案すれば、地域内の顧客リストができる。これで商売のリスクも減り、何より商品を心待ちにするお客さんを励みにものづくりができ、生産者の皆さんのやりがいにもつながります。

 地域の人が地元をみつめ、そこならではの「産業」「文化」「歴史」を掘り起こし、ストーリー性とこだわりを研(みが)き発信する。そこに関連付けた産業体をつくり、地域全体の雇用確保と所得向上をどれくらい見込めるかを鑑み、長期的な構想を練る。

 その過程で、どれほど多くの人が楽しみながら主体的に関われるかに腐心する。地道なまちづくりのプロセスの中で、地域の人たちの能力を引き出して、モチベーションを引き上げ、できないことがあるなら、できる人と引き合わせる場をつくり、つないでいくのが私の役割。スーパー公務員は、「徹底的な黒子・脇役」の総称だと考えています。

★休日も返上し、各地に赴く木村さんを「地域活性化の伝道師」「地域活性の汗かき人」と慕い、心強く思う方も多いと伺っています。原動力は。

木村 俊昭さん

☆木村 全国各地からお声が掛かり、航空機は年間200回弱の利用です。休みは年に数日ほどですが、不思議と疲れは感じないですよ。地域活性は、私の人生の〝本業〟です。

 予算がない、人手がない、国の支援も見込めないと諦めかけていた地域の人たちの思いに火がつき、知恵を絞り奮闘する姿に、私自身も元気をいただいています。その奮闘を頼もしくみつめる地域の子どもたちは、きっと次世代のまちづくりを引き継いでくれることでしょう。まちづくりは、人づくりなんです。

 2020年に東京オリンピック・パラリンピックの招致が決まり、ますます日本への注目が高まっています。地域の個性を発揮したきらりと光るまちづくりで、日本のこんな小さなまちが、こんな小さな集落が、情熱あるまちづくりをしているぞと、世界中に発信できる可能性が大いにある。今こそチャンスだと、地域の人たちに発信しているんです。その実現のためのお手伝いは、誠心誠意惜しまず実践します。

 信条は「恕(「論語」の言葉。他の身になり思いやりをもって行動する意)と志」です。一人一人が、地域を思い合い、恕を実践することで、モチベーションが高まり、まちが輝く。これがまちづくりの原点ではないかと思うんです。

取材を終えて

〝超プラス思考〟で行動

 「できない」を「できる」に変える鍵は、10のうち3うまくいけば3割以上の成果があったと捉えるくらいの〝超プラス思考〟で焦らず取り組むこと、という木村さん。前向きな試行錯誤が、知恵を生み絆を育み、人やまちの力になるとおっしゃいます。木村さんを駆り立てる地域活性の神髄を知るインタビューでした。


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