真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第42回 北海道教育大学岩見沢校芸術・スポーツビジネス専攻講師 一般社団法人A‐bank北海道代表 曽田 雄志(そだ ゆうし)さん

2014年06月06日 13時58分

 2001年のプロ入り以来、一貫してコンサドーレ札幌に在籍し、〝ミスターコンサドーレ〟と呼ばれた人気と活躍で、ファンを沸かせた曽田さん。09年の現役引退後は、スポーツを切り口に教育や地域振興を図る数々のプロジェクトを手掛け、注目されています。11年、アスリート有志を中心に東日本大震災の復興支援に取り組む「EN project japan」を立ち上げ、昨秋には、アスリートのセカンドキャリア創出を掲げた「A‐bank北海道」を設立。ことしから北海道教育大学岩見沢校の講師にも就任されました。スポーツの多面的な可能性を探り、子どもたちの夢の続きを創りたいという曽田さんにお話を伺いました。

★曽田さんの活動は、スポーツ界はもとより、地域、行政、企業など、多岐にわたる業界との連携で展開されていますよね。

曽田 雄志さん

☆曽田 発端は、EN project japanでした。僕は札幌出身です。引退当時は、ジュニアやユースで育った道産子選手たちの成長が顕著になり始めた頃。彼らが地元で活躍する将来を期待する一方で、チームの経営は盤石とはいえず、いずれは現場を熟知し、経営にも精通するゼネラルマネージャーになり、地元チームに貢献できればと考えていました。

 けがが続き、進退を思案する中、海外大学院でのMBA取得を目指し、少しずつ勉強を始めていたんです。英国留学の資格を得た矢先、東日本大震災が起きました。被災地の復興のために何かできることはないかという思いに駆られ留学を断念し、選手時代に築いた人脈を頼りに、アスリートの力を束ねた復興支援プロジェクトの始動に尽力しました。

 北海道には、多くのプロスポーツチームが存在します。ウインタースポーツを含め、五輪出場者を全国一輩出し、種目のバリエーションも多彩です。「スポーツ王国」といえるほどの環境にありながら、ほとんどの人がその価値には頓着せず、日頃からもったいないとも感じていました。

 震災による北海道経済への影響も気掛かりな時期で、アスリートたちの意思と行動を社会に生かすEN project japanは、道内スポーツ産業の可能性を明らかにする機会でもありました。

 各種目を統括する団体の許可をいただきながら、選手個々に直接協力を呼び掛け、福島千里さん(北海道ハイテクAC)や桜井良太さん(レバンガ北海道)、栗城史多さん(登山家)など19人ものメンバーの賛同によりプロジェクトをスタート。業界問わず、実行委員や活動パートナーに名乗りをあげてくれた個人やNPO、企業もさまざまでした。スポーツメーカーに協力を請い、集めた1000足の靴を携え、被災地の子どもたちに直に届けたり、道内生産者のご厚意で野菜も送りました。

 被災地や道内で、アスリートが出演するチャリティイベントの企画・運営をいくつも担い、被災地で漁師さんの仕事も手伝うなど、これまでに30ほどのチャリティプロジェクトを実現させています。ENは「縁」。業界を超えつながり、広がり続けているご縁は、活動の核になっています。

★A‐bank北海道は、国内ではこれまでに例のない起業だと伺いました。

曽田 雄志さん

☆曽田 子どもたちに将来の夢を問えば、プロスポーツ選手は絶大な人気です。でも現実は、現役を10年続けられる選手なんてほんの一握りの厳しい世界。僕は、道内アスリートのセカンドキャリア創出を意図した教育プログラムの実践を構想し、アスリートの経験が生きた教育で子どもたちの夢の続きを創ることを理念に、A‐bankを設立しました。多方面から、新奇な試みだと関心を寄せていただいています。

 今は、契約アスリートを札幌市内14の小中学校に体育の授業や部活動の指導者として定期的に派遣。今後は市での事業化を進め、同様の枠組みで道内外にフランチャイズ展開ができたら、面白いなと思っています。

 スポーツは、社会で必要なスキルを身に付ける学びです。僕はサッカーから、周りの状況を把握することや力を合わせる喜び、師や仲間への感謝を学びました。スポーツを通した実感は、生きるすべにも、自信にもなっています。

 A‐bankの指導は、特に出来ない子に目を向けたもの。契約アスリートたちには、その子たちのチャレンジを見逃さないでほしいと伝えています。性格が違うように、運動能力に差があるのは仕方のないことです。悔やむべきは、運動が苦手な子にありがちな、自分の力を信じず、ベストを尽くさない姿勢です。昨日の自分を超えるチャレンジで、力を出し尽くした時の充実感は格別ですから。その実感が、もっとはやくなろう、もっとうまくなりたいという向上心にもつながるんです。

★ことしから大学で教べんを執り、活動のフィールドをさらに広げられました。

☆曽田 大学では、スポーツマーケティングをテーマに、競技性やエンタメ性、教育的側面や地域性など、スポーツをいろいろなフェイズで分析・研究します。スポーツビジネスという新しい分野の可能性について、学生たちと共に理解を深めていきたいですね。

 夢の続きを創る教育は、子どもたちに生きる力を身に付けてもらうことだと思います。どんなときにもたくましくいられる。だから人を支えられる。困ったときには「手を貸してください」と言えるのも強さでしょう。夢の実現まで自分でレールを敷くくらいの力を育てていきたいです。

 僕も学びの最中。等身大で次世代と向き合い、学び合い、僕自身も成長し続けていきたいと思います。

取材を終えて

強い信念と柔軟な発想

 新しい価値の創造に関心があるという曽田さん。アイデアの源泉は、既存の概念やシステムにとらわれず、物事をさまざまな角度で検討することだと話していました。強い信念と柔軟な発想で社会に働き掛ける曽田さんの大志を知るインタビューでした。


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