真砂徳子の起ーパーソン 風をおこす人々 第49回 SAPPOROショートフェスト実行委員会プロデューサー 久保 俊哉(くぼ としや)さん

2014年10月03日 16時01分

 ことしで9回目を迎える「札幌国際短編映画祭(以下、SSF)」(主催・SAPPOROショートフェスト実行委員会/札幌市)が、間もなく開幕します。今回も、国内外から熱い注目を集めるアワードの頂点を目指し、95の国と地域から3016もの作品が寄せられ、期間中(10月8―13日)は、アワードのノミネート作品を含む世界のよりすぐりの短編を、市内4会場で上映。同時に、応募作品を対象にしたフィルムマーケットも展開し、〝未来の巨匠〟を発掘する国際映画祭として年々評価が高まっています。札幌を拠点に世界を見据える仕掛人・久保さんにお話を伺いました。

★世界規模の短編映画祭が、札幌で開催されるようになった経緯は。

久保 俊哉さん

☆久保 大学時代に短編映画を制作していました。社会人になり久しぶりに鑑賞したフランスの短編映画の面白さにあらためて引き込まれ、短いながらも胸を刺す短編映画の魅力を多くの人に伝えたいと思いました。1990年には、映画祭の原型となる構想はできていたものの、なかなか開催のきっかけをつかめずにいたんです。

 99年に日本初の本格的な短編映画祭「ショートショートフィルムフェスティバル」が東京で開催されると知り、すぐさま上京。主宰する俳優の別所哲也さんと意気投合し、2000年からショートショートフィルムフェスティバルのナショナルツアー「ショートショートフィルムフェスティバルin北海道」を札幌で開催することになりました。

 有志を募り手弁当で開催し、運営ノウハウを蓄積しながら、北海道発・国際短編映画祭の実現を模索。4、5年目で東京本祭の動員数を上回るほどとなり、06年に札幌市との共催で念願だった「第1回札幌国際短編映画祭」が実現しました。大規模な海外の国際映画祭に足を運び、世界の映画関係者との交流を図るなど、地道なPRに励んできたかいもあり、初回から70カ国、約1800もの応募作品が集まったんです。

 国際審査員には、意図してアカデミー賞を受賞した脚本家やハリウッド俳優など世界に名だたる映画人やトップクリエイターを迎えています。それだけにカンヌ国際映画祭のグランプリやアカデミー賞受賞作も出品される高水準の大舞台。ノミネートや受賞は、〝ワールドカップ級〟に取り上げられることも少なくなく、地元監督が入賞を果たしたマレーシアでは、新聞の見開きを飾る報道で、その快挙をたたえたそうです。

 ワールドツアー開催の依頼も絶えず、今回も11月はドイツでセミナー、来年2月にはタイでSSFのプログラムを実施する予定です。国際映画祭として着実に認知され、成長を遂げていることを実感しています。

★世界に門戸を開いたSSFは、北海道在住のクリエイターたちの意欲もかき立てているのではないかと思います。

久保 俊哉さん

☆久保 ゲーム産業の草創期に、東京の大手レコード会社とアメリカの大手ゲームメーカーが資本提携する新会社の立ち上げから関わりました。ここでコンテンツビジネスの根幹を学び、海外の優秀なアーティストやクリエイターたちと共に、新たなエンターテイメント文化の創造に力を注いだ経験は、私の財産です。

 その後、転職した札幌のCGアニメーションを制作する会社でも、前職のノウハウを生かし、札幌にいながら世界のマーケットも視野に入れた仕掛けを試み、バーチャルキャラクターの使用権を商材にしたビジネスを展開しました。

 独立後もローカルを拠点にグローバルなムーブメントを構築する仕事は多く、札幌市が若手クリエイターの育成を目的に創設したICCでは、チーフコーディネーターを務めています。建築を核に多様なクリエイティブ産業を発展させたドイツのデザイン学校「バウハウス」にイメージを重ね、「ICC=インタークロス(異種交配)クリエイティブセンター」と命名。コンピュータ・ネットワークを核に、農業とクリエイティブとか、音楽とサイエンスとか、さまざまなジャンルの知識や技術が共有され、掛け合わさり、新たな価値観を創出していくことを標榜(ひょうぼう)しています。

 著名なクリエイターを海外から招きワークショップを開催するなど、世界と札幌のインタークロスも具現化し、ICCで世界に触れ、世界を広げた人たちは、次々に世界へ飛び出していますよ。

★久保さんのプロデュースには、意識や世界観を広げる力があるんですね。

☆久保 私自身が好奇心旺盛で、前例のない仕掛けを発想し実現することに興味が尽きず、意識や世界観を広げる喜びを知っているからかもしれません。

 SSFでは、日本から見れば地球の裏側にあるような国々などの作品を通し、世界の多様な価値観を思い知ることができます。その映画を作った監督をはじめ、世界各地から集う映画を愛する人たちとじかに触れ合い、国境や宗教の違いなどを越え、ボーダレスにつながれます。

 深刻な社会問題を取り上げたドキュメンタリー映画も多く、環境問題を憂慮したり、かの国の内戦に心を痛める人もいるでしょう。ある中学生は、この映画祭で進路を決め、大学の映画学科に進学したそうです。SSFには、価値観を一変するような「人生を変える15分がある」と自負しています。

 札幌と世界をつなぎ未来に働き掛けるSSFが、20年後も30年後も、次世代までも続くように、その価値を磨き、大切に育てていきたいですね。

取材を終えて

無を有に変える世界観

 子どもの頃は、発明家や化学者になりたいと思っていたという久保さん。自ら遊び道具を考案し作ったり、化学部で新奇な発想の実証を試みたり、ゼロから1を生み出すことに夢中になっていたそうです。無を有にする久保さんの世界観とバイタリティーに、高揚を覚えたインタビューでした。


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