亡国の予感

2017年10月14日 09時02分

 小説家阿川弘之が随筆「亡国の予感」で、警世家でもある作家曽野綾子のエッセイを取り上げていた。新聞やテレビは当時、「経済的に国が亡びる」と騒いでいたが、阿川氏はその姿をうまく想像できずにいたらしい

 ▼この言葉を知ったのはそんなときだったそう。曽野さんは途上国での盗みの横行に触れ、「人間は堕落するのも早い。日本も経済の根本がゆらげば、すぐこういう泥棒国家になる」と指摘したそうだ。よく聞くことわざをもじっていえば「衣食足らざれば礼節も危うし」というところだろう。冒頭の随筆は月刊総合誌『文藝春秋』に連載していた巻頭文「葭の髄から」の一編。1998年10月号に掲載されたものである

 ▼それから20年。数字だけ見れば現在、国内景気は拡大を続けている。ただ、経済のゆがみは大きく進行しているのでないか。日本を代表する大企業の不祥事が続く。今度は神戸製鋼所の品質データ改ざんが発覚した。顧客をだまして利益を上げようとするなら泥棒と変わらない。主力の鉄鋼やアルミ、銅、鉄粉など多くの製品を取引先の強度基準に適合しないまま納入していた。管理職も関与して、何年間も組織的な不正に手を染めてきたらしい

 ▼製品は主要メーカーの基幹部品に使われていた。それだけに新幹線、航空機、自動車と余波はとどまるところを知らない。日本ブランドにも大きく傷が付いた。景気低迷に苦しんだいわゆる「失われた20年」は、大企業を泥棒に変えるまで衣食を奪ってしまったのか。二昔も前に書かれた「亡国の予感」に暗たんたる思いでいる。


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