誰でも過去を振り返りたくなることがある。殊に困難にぶち当たったときや、新たな挑戦を始めるのにためらいを感じているときがそうだろう。見慣れた景色、親しかった人を思い出すと騒いでいた心も落ち着きを取り戻す
▼北原白秋作詞の「この道」はそんな心情にぴったりの歌である。「この道は いつか来た道 ああそうだよ あかしやの花が咲いてる」。いつか来た道ならば、迷って不安になる気遣いはない。普段の生活でなら時に過去を振り返るのもいいが、政治で同じことをすると国が停滞する。衆院選が終わり各党の議席獲得数もきのう確定したが、野党からは早くも「打倒安倍政権」や「森友加計問題の徹底解明」といった見慣れた景色を懐かしむ声が出ているらしい
▼重要課題そっちのけで国政を足踏みさせた、最前までの政治劇がまたぞろ再演されるのかと思うとげんなりである。「いつか来た道」を再びたどるのは簡単だが進歩がない。野党再編でせっかく新しい構図ができたばかりなのに。北朝鮮への圧力強化、憲法改正、消費税の使途変更―。安倍首相は「この道」しかないと公約の実現に突き進むはずだ。安倍政権の信任を懸けて戦った選挙で大勝したのだから当然である
▼これに対し野党が相変わらず新たな挑戦をためらい、政権批判ばかりに終始するなら再編の意義は失われよう。ここは正面から政策論争を挑み、「安倍一強」に代わる新たな政治の形を描いて見せるべきでないか。それができなければ、やっと咲いた「あかしやの花」ならぬ当選の花もしおれる一方だろう。