第2次大戦時のこと。日本の軍隊内では苛烈ないじめが横行していたそうだ。中でも規律や慣習に疎い新兵や要領の悪い者が、古参兵に目を付けられたという
▼その体験談を集めた『軍隊』(松谷みよ子編、立風書房)に詳しい。ビンタ、殴る、蹴るは当たり前。犬になれと命令し四つんばいで走らせたり、セミのまねをせよと延々と木にしがみつかせたり、人としての尊厳を奪い辱めるものがほとんどだったようだ。緊張状態にある閉鎖社会で歯止めもないとき、いじめは起きやすい。厄介なのはそれが秩序や規律の維持という「正義」の仮面をかぶっていることだろう。子どもは大人の鏡。軍隊ほど極端ではないが学校もまた同調圧力が強い社会。似たような条件に置かれた子どもがいじめに走るのも不思議はない
▼文科相が先月末発表した「児童生徒の問題行動・不登校」調査で、昨年度に認知したいじめの件数が前年度に比べ9万8676件増え、過去最多の32万3808件に上ったことが明らかになった。件数が一気に増えたのは、ことしからけんかやふざけ合いも確認の対象に加えたためだ。深刻なのは23万7921件を数えた小学校。全国で約2万校だから、単純計算で1校当たり10件以上にもなる。これでは親御さんも心配だろう
▼軍隊の体験談と学校調査が教えるのは、きっかけさえあればたやすくいじめが発生する日本社会の性格が、あまり変わっていない事実である。あらためて胸に刻むべきではないか。大切なのは昨今はやりの「排除」でなく「寛容」である。大人が率先したい。