昨年11月の参院TPP特別委員会での安倍首相の答弁を思い出す。民進党議員が、首相が大統領選終盤の9月に訪米した際、クリントン氏にだけ会い、トランプ氏に会わなかったのは「間が悪い」と質問したときのことである
▼首相は福田赳夫元首相の「外交は水の上を泳ぐアヒルのようなもの」との言葉を引き、やんわりと反論。世界の首脳の中で一番にトランプ氏と会談できたのもその外交手法のおかげと述べた。首相はその心を「上はスーッと行っているが、水かきの部分はなかなか見えない」と説明。つまり、はたから見ればクリントン氏にだけ会い満足して帰ってきたように思えるかもしれないが、水面下ではトランプ陣営への働き掛けも積極的にしていたということである
▼今回の日米首脳会談の成功も、そうした「水かき」を絶え間なく続けてきた結果なのだろう。安倍首相とトランプ大統領の個人的な信頼関係は一層強まったように見える。安定を欠く国際社会にあっては貴重なつながりでないか。対話を引き出すための北朝鮮への圧力強化であらためて意見の一致を見たことは、日米が先頭に立ち国連決議の履行を求めていく姿勢の表れだろう。これが中露に流されがちな国連の漂流を防ぐための、いかりの役割を果たせればいいのだが
▼首相が拉致被害者を大統領に引き合わせたのも、拉致問題の悲しい現実を世界中の人々に知ってもらう良い機会となったはず。国政ではここしばらく水上でのジタバタが目立った首相だが、首脳会談では水かきの部分も見せずにスーッと泳ぎ切ったようだ。