慣用句に「危ない橋を渡る」の言葉があるが、使われ方は大きく二つに分かれるようだ。一つは金もうけのために、もう一つが成し遂げたい目標達成のために、である。この事件に関わった人物たちの思いは一体どちらだったのだろう
▼国家的プロジェクト・リニア中央新幹線建設工事を巡り明らかになった、大手ゼネコン4社による受注調整のことである。東京地検特捜部などが独占禁止法違反容疑で捜査を始めた。これまでの報道によると、JR東海などが既に発注を終えた工事22件のうち15件を、これらゼネコン4社を代表者とするJVが受注しているという。さらに各JVはこの15件をそれぞれ3―4件ずつ、ほぼ均等に受注しているそうだ
▼確かにきれいな分散具合である。建設に縁もゆかりもない人の目には異様な結果としか映らないかもしれない。一方でプロジェクト管理の観点から、2027年の東京―名古屋間先行開業を実現するためには、適切な仕事配分だと見ている人も案外多いのでないか。日本屈指の難工事区間を幾つも抱える事業である。施工できる会社も指揮できる技術者も限られる。予定通りに開業するには最高の技術を持った会社を集め、協力して事に当たるのが合理的なはず
▼もちろん法をないがしろにするのは論外だ。ただリニアはインフラ輸出の要。成功が至上命題である。重要なのは適正な価格で受注し、高い品質と安全を確保することだろう。建設会社があえて危ない橋を渡らずに済む、柔軟な業者選定方法が採用されていても良かったのではと思わずにいられない。