香港の推理小説作家陳浩基氏の最新作『13・67』(文藝春秋)が、まれに見る面白さと話題になっているのでこの連休に読んでみた。香港の警察官ローとその師クワンが難事件を解決していく過程をスリリングに描いた作品である
▼厚みのある物語構成や謎解きは見事。ただ何よりも作品の魅力を高めているのは、官僚主義が横行する組織の中で理不尽さにもがきながらも、犯人検挙に奮闘する警察官たちの姿だった。ローは敬意をこめて言う。隊を率いるリーダーのクワンは、「信念を変えず、全力で、自分の心に刻まれた正義と公正を守ってきた」。「犯人を逮捕し、善良な市民を守り、真実をあきらかにする」使命を全うするために、つまらない組織論理でなく自分の信念に従ってきた男だというのである
▼この人物像が胸に響いたのは読んでいるさなかの6日に、元プロ野球選手で中日や阪神、楽天の監督を務めた星野仙一さんの訃報を耳にしたからだ。星野さんも自分の信念を貫き通したリーダーだった。「燃える男」の異名そのままの人である。監督時代、判定に納得せず猛然と審判に抗議していた場面を思い出す。プロ意識の低い選手には烈火のごとく怒ったと聞く。楽天を日本一に導き被災地にエールを送れたのも復興への熱い思いあればこそだろう。心に火を付けられた人も多いのでないか
▼警察と野球では違うが使命を果たさんとする精神は同じ。星野さんは野球界を発展させ、人々を喜ばし、日本を元気にしようとの信念を持っていた。残念である。奮闘する姿をまだまだ見ていたかった。