ニヒルな半面、熱くなると暴走して犯人を追い詰める型破りな刑事を天知茂が演じたテレビドラマ『非情のライセンス』(1973年―)を覚えているだろうか。毎週はらはらしながら食い入るように画面を見ていた人も多いに違いない
▼天知氏自身が歌い、ドラマの世界観をそのまま表していた主題歌『昭和ブルース』(作詞・山上路夫)が懐かしく耳に残る。「うまれた時が悪いのか それとも俺が悪いのか―」。大学生の就職内定率が昨年12月1日現在で86%と97年の調査開始以来最高を記録したそうだ。厚労省と文科省がおととい発表した。天知氏ではないが、いわゆる「失われた20年」の就職氷河期を経験した今30、40歳代の人はこの報に触れ、思わず「生まれた時が悪いのか」と割り切れぬ気分を抱いたのでないか
▼例えば03年、小泉政権中盤の内定率は73.5%。また10年、民主党政権ではここ22年で最も低い68.8%を記録している。自由な働き方の美名で非正規化の流れが進んだ時代でもあった。そのあおりをまともに食ったのがかの年代である。雇用の自由化といえば聞こえはいいが、要は新卒正規採用の手控え。非正規で働かざるを得なかった若者たちは結婚にも出産にも二の足を踏み、結果、世代間の格差が広がった
▼この問題が深刻なのは、最初の不利が歳を重ねてもそう簡単には挽回できないことだ。「俺が」でなく、ただ「生まれた時が」悪かっただけなのにである。就職内定率の最高記録更新は喜ばしい。ただ、非情な巡り合わせに悩む人が現在もいることを忘れてはいけない。