法隆寺の宮大工棟梁西岡常一さんの卓越した技能と知識には寺社仏閣の専門家もこうべを垂れるしかなかったという。誰よりも木のことを知っていたからである
▼『木のいのち木のこころ』(新潮文庫)でこう語っていた。「木は大自然が生み育てた命ですがな。木は物やありません。生きものです。人間もまた生きものですな。―この物いわぬ木とよう話し合って、命ある建物に変えてやるのが大工の仕事ですわ」。住友林業(東京)が先週発表した木造超高層建築開発構想「W350計画」を聞き、西岡棟梁のその話を思い出した。規模は70階、延べ45万5000m²、高さ350m。技術の粋を集めた木造建築という意味では、現代の法隆寺と言ってもおかしくない。木との話し合いも相当込み入ったものになろう
▼木造建築物を増やしてそれらをつなげ、「街を森にかえる」のが構想の全体像。超高層は「縦型の森」として象徴的存在になる。創業350周年を迎える2041年の実現を目指すとのこと。本当に木造でできるのかと疑問もわくが、木材の柱と梁に鉄骨ブレースを加えた木造比率9割のハイブリッド構造を使うらしい。地上から高層階まで外部は緑であふれ、内部は純木造。設計は日建設計の協力を得ているそうだ。山を循環させることで林業と環境を再生し、CO²の固定化にも貢献する
▼西岡棟梁はこうも言っていた。「木の命と人間の命の合作が本当の建築でっせ」。形は変わっても木の命を大切にする文化が受け継がれ、さらに進歩していくならこんなに素晴らしいことはない。