▼特命外交部隊に所属するタケシ・コヴァッチは密命を受け、新たな体に人格や身体情報を「デジタル人間移送」される。任務実行の舞台は地球だ。英国作家リチャード・モーガンのSF小説『オルタード・カーボン』(アスペクト)の物語設定である。外交といえば聞こえはいいが要は紛争解決のため投入される特殊部隊のこと。人間の情報を別の体にダウンロードできるようになった27世紀の世界を描く。
▼現実離れしたアイデアを楽しむのがSFの面白みの一つである。ところがこれ、それほど遠い未来の話でもないのではと思わせられるニュースがニューズウィークWeb版に出ていた。米国防総省の国防高等研究計画局が、前線の兵士をサイボーグに変える技術の開発を進めているというのだ。脳にチップを埋め込み、外から情報を送って行動をコントロールする仕組みらしい。戦場用の思考や感情をプログラムとして用意し、脳にダウンロードするということか。怖いことを考える。
▼先頃開かれた世界経済フォーラム年次総会のダボス会議では、政財界の有力者や科学者が、人工知能(AI)を備えた自律型ロボット兵器の開発に警鐘を鳴らしたという。コンピューターが戦争の様相を大きく変えつつあるようだ。そんな物騒な現状を知ると、25日の産業競争力会議での議論には少しほっとさせられる。日本のAI活用は車の自動走行やドローンといった新産業育成に向けられているからだ。高度なAIで確実に人間を殺すロボットなどSFの世界だけで十分である。