▼法隆寺三代目棟梁の西岡常一は、宮大工職人の仕事をコンピューターに代えることなどできないと考えていたそうだ。相手にするヒノキは一本ずつ全部性質が違うため、癖を見抜き、それに合った使い方をしなければならないからだという。引き継がれてきた技と知恵を駆使してはじめて、創建当時の美しさを千年以上保つことができる。『木のいのち木のこころ 天・地・人』(新潮文庫)に教えられた。
▼法隆寺は「世界最古の木造建築物」としてギネス世界記録に認定されている。木造建築物で国内唯一だったが、最近1つ増えたことが話題になった。昨年10月に完成した山形県の南陽市文化会館である。認定は「世界最大の木造コンサートホール」。大ホールは1403人を収容できるそうだ。地元企業シェルター(山形市)が耐火性能を満たすため、木材を石こうボードで囲み、外側をさらに木材で覆う構造部材を開発して実現させたという。人の技と知恵を結集させた成果である。
▼ギネスといえば、道民としてはジャンプ界の「レジェンド」葛西紀明選手を忘れるわけにいかない。既に3つの世界記録を持っているが、1月31日、新たに「W杯個人最多出場488回」「ノルディックスキー世界選手権ジャンプ部門最多出場12回」の2つの認定証を受けたという。西岡棟梁は、優れた職人技には知恵が含まれていると説いていた。葛西選手も変化する雪の状態を見極めながらそんな技を磨いてきた職人だろう。ギネスは今回、そうした達人の技にも気付かせてくれた。