▼先日、札幌市内で同市主催のヒグマフォーラムがあり、知識を仕入れておこうと足を運んでみた。「市街地侵入抑制策と共存に向けて」がテーマである。そこで興味深い話を聞いた。2011年は突出して出没数の多い年だったが、実は1頭のメスが広範囲に行動していただけだったという。その後のDNA解析で分かったそうだ。当時は生息数が増えて危険だと大騒ぎにもなったが真相は違ったのである。
▼別の地点で目撃されたら、普通は同じクマと考えないだろう。人の目でクマの花子さんと太郎さんを見分けるのは難しい。ところが数だけは積み上がるため誤解が生まれる。統計的にはこれを因果推論の誤りというらしい。西内啓氏は『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)で面白い例を示している。次の食べ物を禁止すべきかどうか。「心筋梗塞で死亡した日本人の95%以上が生前ずっとこの食べ物を食べていた」。答えは「ごはん」だ。もちろん病気の主原因ではない。
▼西内氏は「十分なデータ」を基に「適切な比較」をすることが正しい答えを導くと説く。さてこちらの因果推論はどうだったか。民主党などが甘利明氏の疑惑を盾に国会審議を人質に取ろうとした件である。結果、自民党の支持率が上がり作戦は腰砕け。世論は野党が思い描いた形にはならなかった。自分たちが有権者にどう評価、比較されているかが分析から漏れていたのだろう。民主主義には政府与党に対する健全な批判勢力が欠かせないというのに、現状は何ともお寒い限りだ。