▼落語にはあきれるくらいけちで頑固なご隠居さんがよく登場する。「化けものつかい」もそんな噺の一つだが、このご隠居さんは人使いも荒い。あるとき安い物件を手に入れ、喜んで引っ越したがそこは化け物屋敷。ところが怖がるどころか、出てきたからには井戸から水くめ、掃除しろ、布団敷けと、とことんこき使う。ついには化け物が音を上げ、ご隠居さんに泣きながらいとま乞いをするオチがつく。
▼落語だから笑えるがこんなご隠居さんが本当に居たらたまったものでない。事実は小説より奇なりで、そんなご隠居さんも真っ青の悪質な人物が現実に居ることを最近知った。社会保険労務士の男性がブログ(Web日記)に「モンスター社員解雇のノウハウをご紹介」と題し、「社員をうつ病に罹患させる方法」を掲載していたのだという。「合法パワハラ」で精神的に追い込む策を列挙し、自殺したときのため、因果関係を否定する証拠を作っておくことまで指南していたという。
▼社労士は人事や労務管理の専門家として経営側に立つことが多い。問題社員を抱えた企業の悩みに応えようとしたのかもしれないが、浅慮にも程がある。企業が誠実に社員と向き合い、問題を解決できるよう適切な助言をするのが本来の役割だろう。一方的に「モンスター」のレッテルを張られた社員がこの方法で追い込まれ、自殺でもしたらどうするつもりだったのか。厚生労働省は4日、この男性に業務停止3カ月の方針を伝えたという。社労士の化け物にはお引き取り願いたい。