▼高齢化社会といわれて久しい。認知症増加、介護負担、医療費の財政圧迫などこれまで多くの警鐘が鳴らされてきたが、猶予期間の過ぎた今、問題が一斉に噴き出た感がある。家族の悲痛な声が聞こえるような短歌があった。「突然にドア蹴りののしる姑となり家ぢゆうの窓夜ごと泣くなり」(小黒世茂)。こうして題材になるくらいだから、つらい介護の現実はもう、日常に深く入り込んでいるのだろう。
▼厚労省が5日公表した調査結果も、穏やかならぬものだった。2014年度の高齢者虐待防止や高齢者の養護者に対する支援についての調査なのだが、家族や親族ら養護者による虐待が前年度比0.1%増の1万5739件とほぼ横ばいなのに対し、要介護施設従事者によるそれは同35.7%増の300件に上っているというのである。養護者による虐待が多いことは、もちろん大きな問題だが、サービスを提供している施設従事者による件数が急増しているのは一体どうしたことか。
▼施設を見る目が厳しくなったという事情もあろう。こんな事件があればなおさらのこと。14年に川崎市の老人ホームで高齢の男女3人が転落死した事件だが、元介護職員の男が15日、殺人容疑で逮捕された。容疑を認めているという。運営会社のグループ施設では他の職員による数多くの虐待も発覚している。闇が深そうだ。「老いゆえに知りたる小さき倖せを心にとめて穏しく生きん」(小倉成美)。殺人、虐待、離職。今、介護で連想する言葉は、「小さき倖せ」からはほど遠い。