同じアパートに住む大学生10人が箱根駅伝で走る夢を追う姿を描いた三浦しをんさんの青春小説に『風が強く吹いている』(新潮文庫)がある
▼時に激しく衝突しながらチームワークを培い、ついに本戦出場を果たす。レース最終盤、これを最後に引退するアンカーの先輩走者が心の中でこうつぶやく。「これからもきっと、きみたちはお互いの存在を糧に、高みを目指していくはずだ。だれも行けなかった場所へ」。平昌五輪で銅メダルに輝いたカーリング女子の日本代表「LS北見」を見ていてその言葉を思い出した。メンバーの5人がお互いを深く信じ合い、それを大きな力に変えているのを見たからである
▼全員が同郷とはいえ元はそれぞれ別のチームで活動し、栄光と挫折を味わってきた。本橋麻里選手の呼び掛けでLS北見に結集してからの道のりも、決して楽ではなかったと聞く。厳しい時期を乗り越えてのメダル。うれしさもひとしおだったろう。競技中のあの笑顔は日本中を明るくもしてくれた。お互いの信頼といえばスピードスケート女子団体追い抜きで金を獲得したチーム4人を忘れるわけにはいかない。息の合った「ワンライン」の滑り。新たな氷上の芸術を見る思いがした。高木菜那選手はそのままの勢いを駆って女子マススタートでも金。快挙を達成した
▼ただ同じ五輪選手でも、サポート環境に恵まれず練習もままならない人は今も少なくない。大きなチームである日本社会がもっと彼らの糧になり、一人でも多くの選手が「だれも行けなかった場所へ」到達できるといいのだが。