▼吉野源三郎の名前にピンと来なくても、代表作に『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)があると聞けば、それは読んだ覚えがある、という人も少なくないのでないか。叔父さんがコペル君にいろいろなことを諭す。中にこんな一節があった。「一筋に希望をつないでいたことが無残に打ち砕かれれば、僕たちの心は目に見えない血を流して傷つく」。生きる上で希望がいかに大切かを教えているのだろう。
▼財政再生団体になっている夕張市の成果や課題を検証していた第三者委員会「夕張市の再生方策に関する検討委員会」が4日、鈴木直道市長に報告書を提出した。その内容を見ると、風向きがだいぶん、南寄りの暖かなものに変わってきたようだ。地方創生実現のため、財政再建と地域再生の調和に向けて新たな段階に移行することを求める、というのである。つまり、市民に辛抱を強いるばかりの時期はもう終わりにし、誇りや希望が持てるように計画を見直していこうというのだ。
▼再生計画は夕張市民にとって過酷なものだった。債務返済優先のため税金など負担が増える一方、行政サービスは削られる。市民の希望は次々と打ち砕かれた。それ故だろう、人口は計画が始まってから現在までに約30%も減ったという。計画は見直されても、苦しみはまだ残る。吉野は叔父さんにこうも語らせていた。「正しい道に従って歩いてゆく力があるから、こんな苦しみもなめるのだ」。10年間、夕張は挑戦し続けた。その姿に希望をもらった人がどれだけ多くいたことか。