▼東日本大震災からきょうで5年になる。最近、報道各社は相次いで復興に関する世論調査を発表したが、順調と考える人は少なかったようだ。基盤整備が進んだ半面、生活や心の復興は遅れているからだろう。ただ、着実に前進している例もある。気仙沼市の小泉地区がその一つだ。森傑北大教授と和田敦アトリエブンク常務が当初から携わっていたこともあり、本紙でも何度かその取り組みを伝えてきた。
▼昔から勝手口のお付き合いで助け合って暮らしてきたコミュニティーなのだそう。震災後すぐに「小泉地区の明日を考える会」を結成し、防災集団移転によるまちづくりを目指すことになったのは自然の流れだったようだ。ただしそこからの道のりは険しかった。移転場所はどこに、事業認可は、費用は、住民理解はと、次々に壁が立ちはだかったらしい。一見遠回りのようだが、住民たちはまちづくり講座やワークショップを繰り返すことで、一つ一つ合意形成をしていったという。
▼現在、移転先の高台に新しい住宅が立ち始めている。一般の宅地と違うのは、最初から「勝手口のお付き合い」を前提として配置計画を作っていること。それは地域の絆に重きを置く住民の意向に沿ったものだ。被災地では今、仮設や復興住宅での孤独死が増えていると聞く。コミュニティーと切り離されたことが大きな原因だろう。それは復興が行政のお仕着せだけで成功しないことを教えている。住民主導でまちづくりと同時に心の復興も進めてきた小泉地区に、学ぶことは多い。