▼意志を持った機械的存在という概念は人類の想像力と同じくらい古くからあった―。SF作家アイザック・アシモフはエッセイ「ロボット年代記」(『ゴールド』ハヤカワ文庫)の中でそう指摘している。アシモフによると紀元前8世紀頃に活躍した詩人ホメロスの叙事詩『イリアス』に、神が黄金で「頭の中に感覚を備え、話すことも筋肉を使うことも」できる少女そっくりの助手を作る話があるそうだ。
▼人類の変わらぬ夢に翼を与えるのは昔であれば神の力だったが、現代はコンピューターなのだとアシモフは言う。彼が存命で、この話を聞いたらきっと「当然のこと」と驚きもしないのではないか。英グーグル・ディープマインド社が開発した囲碁の人工知能「アルファ碁」が世界のトップ棋士を破った出来事のことである。囲碁で人工知能が人間に勝つのはまだまだ先と予測されていただけに、衝撃を受けた人も多かったようだ。13日までに、人工知能が3勝1敗と勝ち越している。
▼この急速な人工知能の発達は「ディープ・ラーニング(深層学習)」という新たな手法によるものらしい。膨大な対局記録を読み込み、勝ちにつながる展開を記憶、学習していくプログラムだそう。医療にも活用が期待されるようだ。ただ人工知能の能力が飛躍的に上がると、SF好きとしては「昔々は神だったけれど、今は全て人工知能に支配されてしまった」と人間が嘆く暗い未来をつい想像してしまう。もっとも、白と黒、どちらが優勢になるかは人間の知恵次第なのだろうが。