▼iPS細胞開発で2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥京都大教授の好きな言葉の一つに、「人間万事塞翁が馬」があるという。『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』(講談社)に教えられた。生きていく中で、ある時点の幸、不幸がその先どんな結果を招くかは予測できない、と伝える故事である。これまでそう考えざるを得ない出来事ばかりの人生だったそうだ。
▼大学を卒業し、設備の整った国立大阪病院に勤務できたことを喜んだのもつかの間、その幸せはすぐ打ち砕かれたという。ひどく怖い指導医に当たり、「ジャマナカ」と呼ばれ邪険にされ続けたそうだ。意地の悪い人はどこにでもいるものである。その後、医師には治せない多くの患者を見て挫折を味わい、ついには臨床医になる夢も諦めた。ところが立ちはだかるその壁が、研究者としての新たな道を用意したというのだから人生は面白い。まさに、「人間万事塞翁が馬」であろう。
▼山中教授ばかりではない。望み通りになることもあれば、うまくいかないこともある。きのうは悲喜こもごもだったろう。道立と札幌市立の高校入試結果が16日、一斉に発表された。受験した生徒とその親らは発表日まで気が気でなかったに違いない。合格した人には、「おめでとう」。一方で不合格になり志望校でない学校に行く人には「君の可能性はこんなことで少しも失われたりしない」と言おう。悪いことばかりは続かない。未来は誰にも予測できないのだ。山中教授にさえ。