7空港を一括民間委託
2020年度に始まる道内7空港一括民間委託。夏からの審査に向け、運営権取得を狙う企業の動きが慌ただしさを増す。新千歳空港ビルの運営実績がある北海道空港は入札参加に意欲を示し、メンバー組成で大詰めを迎える。住吉哲治会長は「もうかるところだけ集中して投資はしない」と、新千歳空港だけでなく地方空港を含めた開発に注力する構えを見せる。
■観光客広域周遊へ求められる知恵
一括民間委託では、黒字空港の利益を赤字空港に補填(ほてん)できない。唯一黒字の新千歳には頼れず、各空港での収益確保が課題だ。経済団体幹部は、旅行客誘致の鍵を握るLCC(格安航空会社)拠点を新千歳に集中すべきではないと指摘。「周辺の空港に分散し、うまく活用できないか考える必要がある」と注文を付ける。
いかに7空港を線でつなぎ、観光客を広域的に周遊させるのか。人口減少が加速する中、観光客を引き付ける観光資源の磨き直しや道内の交通体系再構築をどのように進めるか。〝民間の知恵〟による空港運営が求められ、道内観光の拠点である新千歳の役割も再定義されようとしている。
■防音対策徹底を
「高齢であした死ぬかも分からない。3年先と言われたらもう要らない」。新千歳空港の航路下で暮らす女性は、思うように進まない住宅防音工事を嘆く。空港民間委託でさらなる開発や新規就航が期待されるが、騒音という悩みも切実だ。
空港の24時間運用を巡る千歳市地域協議会は毎回紛糾する。深夜・早朝の発着枠を広げる17年8月の協議会でも、道の担当者は非難の声に何度も頭を下げた。やりとりを仕切る市職員は「経済活性化も大事だが、生活が破壊されるのは困る」と粘り強く調整に当たる。
1994年、24時間運用で基本合意した際、市は丁寧な説明に努め、住民側は住宅防音工事と地域振興への支援を条件に了承。市の千葉英二企画部長は「千歳の地域理解には歴史と信頼関係がある」と、住民と向き合う努力を続ける。
国際線ターミナルビル拡張や一括民間委託で運航が増えれば、これまで以上に騒音は増す。北海道経済連合会の国に対する18年度予算要望でも、民間委託に向けた対応として、新千歳の24時間運用に伴う防音対策の継続が重要項目として挙がっている。道が掲げる20年の訪日外国人観光客500万人という目標の達成に新千歳の発展は欠かせないだけに、周辺住民の理解と防音対策の徹底が求められる。
■地域戦略の要に
千歳航空協会がイベントで子どもに配るポケット版紙芝居「ちとせくうこうのはじまり」。「小さな、さびしいまち」だった千歳に、飛行機を見たいという強い思いから、協力して飛行場を手作りした経緯を伝える。
山口幸太郎千歳市長は「先人は、空港の発展がまちの発展につながるとの先見の明により、空港を育ててきた」と振り返る。空港の勢いを根拠に、市は次期総合計画で目標人口を10万人に上方修正。札幌圏という地域性、自衛隊基地の立地といった特殊性を差し引いても、現在の活況が空港を核とした戦略的まちづくりに由来することは確かだ。
人力で整地した着陸場、平屋の旧ターミナル施設、全国初の空港直結のJR駅整備、商業施設の開発など、時代が変わるごとに利便性と魅力の向上、機能の拡充を進めてきた新千歳。一括民間委託を控え、地域経済を動かす力を生かし、活況を全道に行き渡らせる空間形成の導き手としてさらなる飛翔の時を迎えている。
(この連載は経済産業部 武山勝宣、建設・行政部 本間愛理記者が担当しました)