▼本道で官営鉄道の必要が叫ばれていた明治27(1894)年のこと。第4代北海道長官北垣国道と帝大工科大教授田辺朔郎との間で交わされた会話を、作家田村喜子が『北海道浪漫鉄道』(新潮社)で再現していた。北垣の鉄道に懸ける思いを聞いた田辺はこう疑問を投げ掛ける。「一千マイルの鉄道敷設が必要というのに、たった三十五マイルだけの予算を提出するというのは、ずいぶん消極的な話です」
▼北垣とて、十分な予算を獲得して一気に事業を進めたかったに違いない。ただ、帝国議会は北海道開拓に鉄道が急務であることを理解できずにいた。北垣は田辺の問いに、こう答える。「三十五マイルはまず手はじめだ。北海道に東西南北の大動脈を通す構想を実現させる突破口といってもいい」。大きなプロジェクトというのは、こうした将来を見通す目と熱意を持った人によって動かされていくものなのだろう。きょうまた一つ新たな突破口が開かれた。北海道新幹線開業である。
▼沿線各地はじめ本道は歓迎ムード一色だ。とはいえ無駄遣い、経済効果は薄い、といった批判があるのも事実。それなりに理はあろう。頭から否定するのでなく、成長の糧とできればいい。しかしきょうのところは遊び心も交え、アポロ11号で人類初めて月に降り立ったアームストロング船長の言葉をもじり、北垣長官に連なる道民の喜びを述べておこう。「これは一本の路線としては短い区間だが、北海道にとっては飛躍への第一歩である」。舞台の幕はようやく、開いたばかりだ。