▼子どもから大人まで皆に愛されている漫画といえば、「サザエさん」(長谷川町子著)は間違いなくその一つだろう。それもそのはず、1946年に4コマ漫画で新聞連載が始まり、作者が亡くなった今もテレビアニメは続いている。連載開始のころの作品を見ると、闇市への買い出しや戦災孤児のための寄付集め、引き揚げ者へのねぎらいと、戦後すぐの世相がユーモアたっぷりに描かれていて興味深い。
▼サザエさんが「男女同権とうろん大会」の壇上に立ち、「男性よ女性をかいほうすべし」と訴える話もある。サザエさんが誕生したこの年4月10日、戦後初の衆院選で女性が初めて参政権を行使したのを題材にしたのだろう。当時の文部省が投票を棄権しないようにと出した文書「婦人の皆様へ」がなかなか振るっている。「皆さんは、男性よりもずっと鋭い直観力と云ふか、一種のカンを持って居られます。人物の真偽を、そのカンで嗅ぎ分け、必ず真ものに投票せられるでせう」。
▼そんな時代を画する選挙から70年。ことしは選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法が施行される。これまで以上に若者の声が国政に届く。準備はいかにと思い総務省の「18歳選挙」HPを見たのだが、気のせいか若者受けを狙った工夫ばかりが目立つ。一方で、「人物の真偽を、そのカンで嗅ぎ分け」と女性にかつて期待したように、新たな有権者である若者を信頼する文言は見当たらない。18歳になったカツオ君なら、「若者を甘く見てもらっちゃ困る」と言うのでないか。