▼日本書紀に崇神天皇の詔を記した一文がある。大要こんな内容という。「農は天下の中心で、人々が生きていくにはこれが頼りだ。しかし今、河内の田に水が少ないため農民は仕事ができない。ため池を多く築造し、仕事ができるようにせよ」。こうしてできたのが現存する日本最古のため池「狭山池」(大阪狭山市)だそう。遺構の年代測定で、616年に伐採された木材が使われたことが分かっている。
▼飛鳥時代初期に築造されたわけで、ことしはそれから実に1400年にもなる。ダム形式のため池だそうだが、土木施設としてもかなりの長寿命と言っていい。奈良時代の行基、江戸時代の片桐且元など名だたる人物が当時の最新土木技術を駆使して改修し、維持し続けてきたとのこと。さらに2001年に完了した「平成の大改修」では洪水を調節する機能を加え、治水ダムに生まれ変わらせたという。公共事業による社会資本整備が生活を向上させた典型例と言えるのではないか。
▼社会資本整備の効果には、大きく分けてフローとストックがある。フローは直接需要や所得の創出、ストックは生活や安全・防災性の向上、農業施設なら収量増がその中身。改修コストを差し引いても、狭山池のストック効果が相当なものだと分かる。現代は金融社会だが、1400年間も広く利を生み続ける金融商品など考えられないだろう。近年何かと肩身の狭い公共事業だが、今も全国に狭山池のような良質の社会資本が整備されていることに、もっと多くの人が気付いていい。