国立民族学博物館で准教授を務める広瀬浩二郎氏が失明したのは13歳の時だったそうだ。数々のハンディを乗り越え文化人類学者となった氏は今、全盲を物ともせず野外調査を精力的にこなし、趣味で居合道もたしなむ。周囲の偏見を自らの工夫と行動で覆してきたのである
▼氏はこう顧みる。障害者はかつて社会の片隅で「こそっと」生きていたが、徐々に法も整備され「ちょこっと」自己主張できるようになった。氏の半生をつづった著書『目に見えない世界を歩く』(平凡社新書)で学んだことである。「ちょこっと」にはまだ先があるという。次は「がらっと」。それは「マイノリティが社会の常識、固定観念を引っくり返す」段階なのだとか
▼読んだときには何を言わんとしているのかよく理解できなかった。当方がいわゆる健常者だからだろう。ところが韓国平昌パラリンピックで選手たちの活躍を見ているうち、その一端が分かった気がした。障害者に対する固定観念が引っくり返されたからである。雪や氷の上に立つのは五輪と変わらぬ一人の競技者。障害の暗い影などどこにもない。「オリ」と「パラ」の違いは、スキーとスケートといった種目の違いでしかないようにさえ思えた
▼14日にはアルペンスキー女子大回転(座位)で村岡桃佳選手が金メダルを獲得。日本に初の金をもたらした。攻めに徹した滑りはまさに圧巻。頑張る障害者を見るのでなく、純粋に競技を楽しませてもらった。こうした「がらっと」を幾つも積み重ね、誰もが個性に応じて力を発揮できる社会に近づけるといい。