米国俳優アーノルド・シュワルツェネッガーの代表作はと問われて多くの人がまず思い浮かべるのは映画『ターミネーター』だろう。氏演じる未来から来たアンドロイド「T―800」が脅威となる人間を抹殺しようと執拗(しつよう)に追い回す物語である
▼未来社会では自我を持ったコンピューター「スカイネット」が人類をほぼ根絶やしにし、残り少ない人間が抵抗軍を組織して反撃に出ているとの設定だった。この恐ろしい「スカイネット」と同じ名前で呼ばれるシステムが、現実の世界で既に稼働しているのをご存じだろうか。AI(人工知能)を駆使した中国の監視カメラネットワーク「天網」である。全国に1億7000万台のカメラがあり、この内2000万台に高度なAIと顔認識機能が搭載されているそうだ
▼その能力は想像のはるか上を行く。数秒で億単位の人物を特定し、リアルタイムで行動を把握できるという。2000年から整備が始まり、あと3年ほどで中国全土を網羅するらしい。中国といえばインターネットの厳しい監視でも知られる。体制批判の書き込みは即座に消され、当局が危険視する言葉は検索さえできない。思想統制を強めているのである。このネット監視と「天網」が融合するとどうなるか。きっと籠に入れられた鳥の気分だろう
▼折しも習近平国家主席に終身主席の道が開けた。これからは習氏の自我が中国人民の上に君臨する。「T―800」は最後に「必ず戻る」と言い残して溶鉱炉に消えた。中国にも再び過去の独裁が舞い戻るのでなければいいのだが。