▼20世紀を代表する報道写真家にロバート・キャパがいる。悲惨な戦いが続く当時のインドシナ戦線の現実を世界に伝えるため、ライフから取材を懇請されたキャパは、危険だからと引き留める友人にこう答えたという。「生と死が五分五分なら、俺は又パラシュートで降りて写真を撮るよ」(『ちょっとピンぼけ』ダヴィッド社)。自分が伝えなければ事実は闇の中のままだ、とのジャーナリスト魂だろう。
▼キャパの写真の中でよく知られているものの一つは、第2次大戦でノルマンディー上陸作戦に従軍した一連の写真である。兵士が泳ぎながら進軍していく情景を切り取ったものだ。画像がぼやけていたため、「キャパの手は震えていた」と言われたが、実は助手の現像ミスだったらしい。ただ、兵士と共に最前線にいた写真家はキャパだけで、彼のおかげで世界は上陸作戦の困難な実態を知ることができた。この写真でキャパは、米報道界最高の栄誉ピュリッツァー賞を受賞している。
▼そのピュリッツァー賞がことしで第100回を迎えたという。18日に受賞者が発表された。公益部門には海産物輸出のため奴隷同然に使われる東南アジアの人々をスク
ープしたアソシエーテッド・プレス、ニュース速報写真部門には小舟で危険な海を渡る難民を捉えたロイターとニューヨーク・タイムズが選ばれている。何が本当に起きているのか分からなければ問題の解決などできないのは、キャパの時代も今も同じ。さて日本のジャーナリズムもその使命を果たせているだろうか。