▼アイルランドの著名な評論家ジョージ・バーナード・ショーはかなりの毒舌家としてよく知られている。1931年、『リバティ』の取材で当時の英国経済について尋ねられた氏は、富の分配の観点からこう答えたそう。「プロの強盗どもにうまい汁を吸わせた後の富を街頭に放り出して、最も腕力のある強欲なハゲワシどもが奪い合うのに任せている」。その通り、と大喝采する庶民の姿が見えるようだ。
▼ショーが今も高く評価されているのは、毒舌が正確な社会分析から導き出された警句になっているからだろう。独善的で無責任な放言なら、昨今話題のヘイトスピーチと変わらない。歴史の審判にも耐えられないはずだ。さて、ただのヘイトスピーチなのか優れた警句なのか、よく分からないのが米大統領選共和党指名候補争いで首位を走るドナルド・トランプ氏の発言である。日本から見ていると差別・排他主義者のようだが、26日にあった北東部5州の予備選でも圧勝したという。
▼米国民だって愚かでない。支持が広がっているからには米国の抱える問題を鋭く突いているのだろう。ただ西側超大国の指導者に必要な、世界の安定に貢献しようという意志はお持ちなのかどうか。ショーは英国の未来を聞かれると、その問いは時期遅れで「問うべきなのは、人類文明そのもの」がこの難局を切り抜けられるかだと一蹴した。今のところ得意の毒舌で喝采を浴びるトランプ氏だが、それが薬に変わらない限り、毒はいずれ自身や社会の体力を奪ってしまうに違いない。