▼世界を舞台に活躍する指揮者の小澤征爾さんは若いころ、パリで運転免許証を手に入れたそうだ。『ボクの音楽武者修行』(新潮文庫)に書き留めている。早速運転して演奏会に向かったときのこと。真っすぐ走っているのに、なぜか車が横の草むらに突っ込んでいく。「くたびれた馬じゃあるまいし、草を慕う理由もないはずだ」と思いながら外に出てみると、片方の前輪の空気が半分抜けていたという。
▼旅程をある程度自由に組めるドライブは便利なもの。ただ、時に予期せぬ故障や事故に見舞われる。小澤さんは幸い事故に至らなかったが、一つ間違えばという状況ではあったろう。この連休も全国で悲惨な交通事故が相次ぐ。3日に山口県の山陽道でトラックが渋滞の列に追突、4日に福島県の常磐道でバスと乗用車が正面衝突した。どちらも母親と子どもが犠牲になっている。同じ4日には島根県で走行中の車に落石が直撃し女性が亡くなった。想像を絶する出来事に言葉を失う。
▼道内でも4日、旭川で乗用車が対向車線に飛び出し、突っ込まれたワゴン車を運転していた女性が亡くなっている。乗用車を運転していた男性の飲酒運転が原因とのこと。いずれの事故も自分や身内が巻き込まれていたとしてもおかしくはない。交通事故の怖さである。連休もあすで終わりだ。ドライブに出掛ける人もいよう。よもやタイヤの空気が抜けているのに気付かぬ人もないだろうが、自分の気は抜けていないか、交通環境に不穏な雰囲気はないか、常に点検だけは怠りなく。