▼「金があれば馬鹿でも旦那」のことわざをそのまま笑い話にしたような落語に「味噌蔵」がある。味噌屋のけち兵衛は金持ちだが飛び切りのけち。物を食べるから女房はいらない、入費が増えるから子どもができたら災難、という徹底ぶりだ。ある日用事で出掛けると、店の者たちはここぞとばかり飲めや歌えの大宴会。店が心配で早く帰ってきたけち兵衛はカンカンである。その上味噌蔵の火事騒ぎまで。
▼何せ節約したいがために、使用人の三食を全て薄いみそ汁とごはんのみにしていたというのだから、恨まれても仕方ない。お金に心を奪われていると、いずれ大切なものを失ってしまうということだろう。タックスヘイブン(租税回避地)を利用している企業や個人の名前が書かれた流出名簿「パナマ文書」公表の報に触れ、この噺が思い浮かんだ。21万件のデータのうち、日本に関連するものも400件ほどあったらしい。大手企業やよく耳にする経営者の名も取り沙汰されている。
▼もちろん資金洗浄や脱税は別にして、タックスヘイブンの利用そのものが違法というわけではない。ただ行き過ぎた節税は卑劣とのそしりを免れないだろう。自国には薄いみそ汁とごはんしか出さず裏でため込んでいるのだから。経済学者トマ・ピケティもタックスヘイブンの存在を懸念していた一人だ。『21世紀の資本』では所得格差の広がりを実証し、世界が足並みをそろえて資本課税をするよう提唱していた。さてパナマ文書のお歴々の味噌蔵にも、火の手が迫っているのでは。